一人法人・少人数法人で役員貸付金が膨らむ本当の理由と解消法|受託開発・クリエイター法人の実務

佐久間 元気

佐久間 元気

代表 / 税理士・公認会計士

役員貸付金の解消法|膨らむ理由は役員報酬の未設定

この記事の要点

  • 役員報酬を「きちんと設定していない」立ち上げ期の一人法人・少人数法人ほど、会社が生活費を立て替える形で役員貸付金が静かに膨らむ。
  • 放置すると、認定利息(令和8年=2026年中の貸付は年1.3%)・給与認定による損金不算入・融資審査での評価低下という三重の不利を負う。
  • 解消の本筋は「返済計画」より先に役員報酬の設計。事業の利益見込みに合わせて定期同額給与と事前確定届出給与を組み、生活費をまかなえて貸付金が増えない水準に置くこと。

受託開発の一人法人、SESやSaaSの小さな法人、ライブ配信・クリエイター系の法人——業種は違っても、立ち上げ期に共通して起きるのが、決算書に載る「役員貸付金」の膨張です。

原因も解消の手順も業種によらず同じなので、本記事は「オーナーが少人数で回している法人」という状況に絞って、なぜ膨らむのか・何が起きるのか・どう解消するのかを整理します。

なぜ一人法人・少人数法人で役員貸付金が膨らむのか?

役員報酬を明確に設定しないまま、会社の口座から生活費を出しているからです。

創業直後は、売上が立つ月と立たない月の差が大きく、「役員報酬をいくらにするか」を後回しにしがちです。その間も生活費は出ていくため、会社が役員個人に立て替える形になります。この立替が積み上がったものが役員貸付金です。

代表ひとり(+サポート数名)で回している段階ほど公私の資金が近く、金額は単純な掛け算で膨らみます。月に20万円の立替でも1年で240万円、50万円なら600万円。自覚がないまま、決算書に残高として残ります。

役員報酬を決めるべきだという原則は、知っている方がほとんどです。問題は、「役員報酬を、事業の利益見込みと生活費に合わせて決める仕組み」がないことです。

報酬をいくらにするかを決めるには、事業の利益見込みと生活費と、社保・税の負担を同時に見る必要があるため、この3つを突き合わせる場がないと、「いくらにすればいいか分からない」まま先送りになります。その間も、支出は貸付金として増え続けます。

役員貸付金を放置すると何が起きるのか?

認定利息・給与認定・融資評価の低下という、税務と資金調達の両面で不利になります。

  • 認定利息がかかる:会社が役員に貸したお金には、原則として利息を取る必要があります。利率は貸付を行った年で判定し、令和4〜7年中の貸付は年0.9%、令和8年(2026年)中の貸付は年1.3%です。利率は「その年の平均貸付割合+0.5%」で決まります。
貸付けを行った年利率
平成30年〜令和2年1.6%
令和3年1.0%
令和4年〜令和7年0.9%
令和8年(2026年)1.3%

令和7年分までの利率は国税庁タックスアンサーNo.2606「金銭を貸し付けたとき」に一覧があります。

令和8年分は同ページにはまだ反映されておらず(2026年9月時点でも「令和7年4月1日現在法令等」のまま)、財務省告示で令和8年の平均貸付割合が年0.8%と定められたことから、年0.8%+0.5%=年1.3%となります。

  • 取らないと給与とみなされる:無利息や低利のまま放置すると、本来受け取るべき利息との差額が役員給与と認定され得ます。会社側はこれを損金にできず、役員個人には所得税・住民税がかかる——会社と個人の双方で負担が増えます。
    • ただし、その差額が1年間で5,000円以下であれば課税されません。ほかにも、災害や病気で臨時に多額の生活資金が必要になった場合や、会社の借入金の平均調達金利など合理的な利率を定めて貸し付けている場合は、課税されない扱いがあります。それ以外は、原則として計上が求められます。
  • 融資審査で評価が下がる:決算書に多額の役員貸付金があると、金融機関からは「会社のお金が個人に流れている」と見られ、融資の評価に響きます。成長のために借入を考える段階で、これは実害になります。

役員貸付金はどう解消するのか?

先に「もう増えない状態」を作り、そのうえで溜まった分を計画的に返す——順番が逆だと消耗します。

多くの人が「役員報酬を上げて一気に返す」を考えますが、報酬を上げれば社会保険料も税も増えます。返済スピードと社保・税の負担はトレードオフで、勢いだけで進めると手取りが目減りするだけです。実務の順番はこうです。

  1. 役員報酬を設計し直す:事業の利益見込みに合わせ、生活費をまかなえて新たな貸付金が発生しない水準に役員報酬を設定する(次章)。
  2. 返済計画を資金繰りに組み込む:溜まった貸付金は、毎月の資金繰り表のなかで無理のないペースで返済していく。役員借入金との相殺や、退職金設計とあわせて整理できる場合もある。
  3. 手続き面を確認する:役員への貸付は会社法上の利益相反取引に該当する場合があり、機関決定など所定の手続きが必要になることがあります。ここは税務とは別の論点なので、専門家に確認しておくと安全です。
役員貸付金を解消する順番
1
役員報酬を設計し直す
事業の利益見込みに合わせ、生活費をまかなえて新たな貸付金が発生しない水準に設定する
→
2
返済計画を資金繰りに組み込む
溜まった貸付金は、毎月の資金繰り表のなかで無理のないペースで返済していく
→
3
手続き面を確認する
役員への貸付は利益相反取引に当たり、所定の手続きが必要になる場合がある

役員報酬の設計で社保・税を抑えるには?

毎月の定期同額給与を抑えめにし、賞与部分を事前確定届出給与で組むのが基本形。ただしキャッシュのタイミングに注意が要ります。

  • 定期同額給与:毎月同額で支払う役員の月給。届出は不要ですが、金額を変えられるのは原則年1回・会計期間(通常は事業年度)開始の日から3か月以内です。だから期首の設計が重要になります。
  • 事前確定届出給与:役員賞与を損金にするための仕組み。届出期限は「株主総会などの決議日から1か月」と「会計期間(通常は事業年度)開始の日から4か月」のいずれか早い日(新設法人は、設立の時に開始する職務について定めた場合、設立日から2か月以内)。
    • 決算報告と同じ定時株主総会で決めるのが通常なので、実務では総会から1か月以内が実質の期限になります。ただし、職務の執行がすでに始まっている役員について後から決議した場合は、起算日が決議日ではなく職務の執行の開始の日になります。
    • そして届出どおりの日に・届出どおりの金額を支給しないと、差額ではなく全額が損金不算入になります。
手続き期限外したとき
定期同額給与の改定会計期間(通常は事業年度)開始の日から3か月以内(原則年1回)増額分等が損金不算入
事前確定届出給与の届出決議日(決議が職務の執行の開始の日より後になるときは、その開始の日)から1か月、または会計期間(通常は事業年度)開始の日から4か月のいずれか早い日(新設法人は設立日から2か月以内)支給額の全額が損金不算入

定期同額を抑えて事前確定に寄せると社会保険料を圧縮でき、法人と個人を合わせた手取り(合算キャッシュフロー)は大きくなりやすい設計です。

ただし事前確定は支給日にまとまったキャッシュが必要で、その日に資金が足りないと届出どおりに払えず、全額が損金不算入になるリスクがあります。年金や退職金への影響というデメリットもあります。

なお、この「月額を抑えて賞与に寄せる」設計は現行制度で認められた枠組みですが、賛否があり、制度改正で前提が変わり得ます。

2025年6月に公布された年金制度改正法では、厚生年金の標準報酬月額の上限が65万円から75万円へ段階的に引き上げられることが決まりました(2027年9月に68万円、2028年9月に71万円、2029年9月に75万円の3段階。賞与側の上限は据え置き)。

何年も同じ形で回す前提ではなく、毎期見直す前提で組んでください(2026年9月時点)。

私たちが顧問先で役員報酬を設計するときは、合算キャッシュフローが数字上いちばん大きくなる組み合わせをそのまま採用することはしません。

支給日に本当に払えるか(資金繰り)、社保を下げすぎて将来の年金や退職金設計に響かないかまで見て、現実的な水準に落とすのが実務です。シミュレーションの最大値をそのまま採るのは机上、そこにキャッシュと将来を重ねるのが顧問の仕事です。

実際の事例:ライブ配信事業の役員貸付金を、報酬設計で解消

ライブ配信事業(年商5,000万〜1億円/役員2名の少人数体制)で、役員報酬を設定しておらず、会社が生活費を毎月60万円前後立て替えた結果、役員貸付金が600万〜700万円に膨らんでいたケース。事業の利益予測をもとに、社保を抑えた役員報酬+事前確定届出給与をシミュレーションで設計し、新たな貸付金の発生を止めたうえで、進行期分 約500万円・過去分を含む約140万円を返済し、最終的に役員貸付金を解消しました。事前確定は支給日のキャッシュの支払余力を踏まえて、試算上の最適値より低い水準に調整しています。

この記事のFAQ

Q. 役員貸付金は「悪」なのですか? 存在自体が直ちに違法というわけではありません。ただ、認定利息・給与認定・融資評価という具体的な不利があるため、増え続ける状態は早めに止めるべき、という位置づけです。

Q. 期の途中からでも役員報酬を設定・変更できますか? 定期同額給与は原則、事業年度開始から3か月以内の改定に限られます。事前確定届出給与も届出期限があるため、早く着手するほど設計の自由度が高くなります。

Q. 事前確定届出給与だけ大きくすれば、いちばん得ですか? 手取りは大きくなりやすい一方、支給日のキャッシュが不足すると全額損金不算入になるリスクがあり、年金・退職金への影響もあります。資金繰りと将来設計を含めて水準を決める必要があります。

Q. 役員貸付金が多いと、本当に融資に影響しますか? 金融機関は決算書の役員貸付金を「社外流出」に近いものとして見る傾向があり、評価に影響し得ます。借入を予定しているなら、事前の解消が効きます。


NOMERAは、受託開発・SES・広告・ECなどデジタル領域の企業に特化した、東京・西新宿の会計事務所です。オンラインで全国対応しています。

役員報酬の設計と役員貸付金の整理は、顧問契約の範囲内で対応しています。

この記事の内容が自社に当てはまるかを確かめたい方は、お問い合わせフォームからご相談ください。現在の税理士がいる場合の、セカンドオピニオンとしてのご相談にも対応しています。

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※本記事は2026年9月時点の公開情報にもとづく一般的な解説です。個別の取扱いは事実関係により結論が変わるため、実行前に税理士へご確認ください。

参考文献

(2026年9月9日に原典で確認)

UPDATE

内容は掲載時点の制度・実務に基づきます。制度改正があった記事は更新日を改めて記載します。
佐久間 元気

AUTHOR

佐久間 元気

代表 / 税理士・公認会計士

公認会計士試験合格後、PwCを経てNOMERA会計事務所を設立。月次の数字を経営判断につなげ、税務・労務・法務・融資までを一つの窓口で整理する体制を設計

税理士登録番号:149427 / 公認会計士登録番号:043719

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