経費の線引き——自宅兼事務所・私的利用・交際費を、少人数の法人でどう決めるか

佐久間 元気

佐久間 元気

代表 / 税理士・公認会計士

経費の線引き|少人数の法人:何割かではなく説明できる基準で

この記事の要点

  • グレーな経費は「何割なら通るか」ではなく、「なぜその割合か」を説明できる基準を先に決めます。
  • 自宅兼事務所は、賃貸なら社宅、持ち家なら法人が社長から借りる形にすると、家賃を法人の経費にできます。
  • 交際費は金額を削るより、誰と何のために使ったかの記録を残すことが最大の防御になります。
  • 私的利用が混ざるカードや車両は、割合を詰めるより先に財布や名義を分けたほうが、記帳も説明も簡単になります。

経費の線引きで決める論点と、その期限

この記事で扱うのは、自宅の事務所部分、役員社宅、車両の私的利用、交際費、福利厚生費と旅費規程、法人カードの6つです。それぞれが何のことで、いつ決めておくかを先に整理します。

  • 自宅の事務所部分:社長の自宅の一部を法人の事務所に使うとき、法人が家賃や光熱費を負担する形です。契約や精算のしかたは、法人が負担を始める前に決めます。
  • 役員社宅:法人名義で借りた住宅を社長に貸し、通達の算式で計算した家賃(賃貸料相当額)を受け取る形です。算式には固定資産税の課税標準額(固定資産課税台帳の金額)を使うため、切り替える前に証明書が取れるかを確かめます。
  • 車両の私的利用:社長が私用にも使う車の費用を、事業に使った割合で法人の経費にすることです。いつどこで使ったかの記録を、使うたびに残します。
  • 交際費:取引先との飲食や贈答などの費用で、法人税で損金にできる額に上限があります。誰と何のために使ったかの記録は、支出のたびに残します。
  • 福利厚生費と旅費規程:従業員に同じ基準で出す手当や、出張の日当の支給基準です。就業規則や規程に書くと以後の支給義務になるため、最初に支給する前に決めます。
  • 法人カード:会社の経費を払うカードです。私的な支払いが混ざると役員貸付金などの処理が増えるため、混ざっているなら按分より先に法人用と個人用に分けます。

なぜ「何割なら通るか」で経費を決めてはいけないのか?

按分率の妥当性より先に、事業利用が実際にあるかどうかを確認する必要があるからです。

たとえば自宅兼事務所の電気代を、仕事部屋に加えて、ときどき打ち合わせに使うリビングの面積まで含めて按分したいとします。リビングを業務で使うのが月に数回なら、その面積まで含めた割合は利用の実態に合わず、根拠を示しにくくなります。

按分の説明で問われるのは、割合の大小ではなく、その割合の内訳を数字で示せるかどうかです。示せない按分率は、税務上認められにくくなります。

自宅兼事務所の家賃・光熱費は、法人でどう負担するか?

自宅が賃貸か持ち家かで、法人が家賃を負担する形が変わります。

  • 賃貸の場合:契約を法人名義に切り替えて、役員社宅にします(次の節)
  • 持ち家の場合:社長が自宅の事務所部分を法人に貸し、法人が社長に家賃を払います

持ち家の形では、社長と法人で賃貸借契約を書面で結び、家賃は事務所部分の面積などから根拠を示せる額にします。

社長が受け取る家賃は、社長の不動産所得になります。同族会社の役員が会社から資産の賃貸料を受け取る場合は、金額にかかわらず確定申告が必要です。

光熱費や通信費が社長名義の契約なら、業務に使った部分を合理的に計算して、法人が精算します。国税庁は従業員の在宅勤務の費用について、床面積や業務日数の割合で業務使用分を計算する方法を示しています。

通信費は本人の端末が対象です。配偶者の端末は、配偶者が法人の業務に従事している場合に限ります。

賃貸の自宅は、なぜ社宅にするのか?

家賃から、社長に払ってもらう賃貸料相当額を差し引いた分を、法人の負担にできるからです。法人契約にできるかは、貸主が認めることが前提です。

前提として、法人が社長から賃貸料相当額を毎月徴収することが必須です。受け取る家賃が賃貸料相当額より低いと、その差額が社長の給与として課税されます。

賃貸料相当額の計算

賃貸料相当額は、住宅の広さによって計算のしかたが変わります。

  • 小規模な住宅:床面積が132平方メートル以下の住宅です。法定耐用年数が30年を超える建物では99平方メートル以下です。月額は次の3つの合計です。
    • 建物の課税標準額×0.2%
    • 12円×総床面積(㎡)÷3.3㎡
    • 敷地の課税標準額×0.22%
  • 小規模な住宅に当たらない場合:次の2つのうち多いほうの額です。
    • 支払家賃の50%
    • 建物の課税標準額×12%と敷地の課税標準額×6%の合計を12で割った額。法定耐用年数30年超の建物は12%を10%にします。
  • 豪華社宅(床面積240平方メートル超など):算式ではなく、通常支払うべき使用料相当額です。

どちらの算式も課税標準額を使うため、証明書が取れるかどうかで経費にできる額が変わります。借主である法人も、市町村に固定資産課税台帳の記載事項証明書を請求できます。評価額と課税標準額が並ぶ場合は、課税標準額の欄を使います。

  • 証明書が取れる:小規模な住宅であれば、算式で求めた賃貸料相当額を差し引いた残りを法人の経費にできます。
  • 証明書が取れない:算式で計算できないため、当事務所では証明書が取れるまで、家賃の5割を賃貸料相当額として社長から徴収する扱いを暫定の基本にしています。通達に定めがある扱いではないため、証明書が取れ次第、算式で計算し直します。

契約が社長個人の名義のままの場合

契約名義が個人のままでも、実際に業務で使っているなら、業務使用の面積や時間から算出した割合で法人負担にします。当事務所では、算出根拠を示せる場合でも家賃の5割を上限の目安にしています。

全額を法人に載せないのは、居住と業務が同じ空間で並行していて、業務専用と言い切れる面積も時間も証明できないためです。

この形は社宅の扱いにならないので、社長と法人の間で賃貸借の契約を結び、業務使用の面積などの根拠を残します。

社長が借りている物件の一部を法人に貸すことになるため、契約で転貸が認められていない限り貸主の承諾が要ります。法人から受け取る賃料は社長の不動産所得になり、法人に貸した部分の家賃はその必要経費になります。

車両の私的利用は、按分と全額経費のどちらを選ぶべきか?

原則は使用割合による按分です。全額を法人負担にできるかも、事業利用の実態を後から説明できるかで決まります。いつどの現場で使ったかの記録を残しておきます。

社長個人の車を業務に使う場合

業務で使った燃料費や高速代を、領収書と走行記録にもとづいて法人が精算します。社長が立て替えた会社の経費の精算なので、社長の収入にはなりません。精算するまでは、法人の帳簿で社長への未払金として残ります。

法人が社長に車の使用料を払う形にすると、使用料は社長の所得になります。同族会社の役員が会社から資産の賃貸料を受け取る場合は、金額にかかわらず確定申告が必要です。

法人の車に私用が混ざる場合

私用部分を社長が会社に精算します。社長が精算する資金を用意できなければ、その分は役員貸付金(会社から社長への貸付)として残り、個人で保有した場合と実質的に変わらなくなります。

交際費は、金額を削る前に何をすべきか?

領収書だけでは足りません。誰と行ってどんな事業の話をしたかを、日付・場所とあわせてメモか議事録の形で残します。同行者を書けない本人ひとりの飲食代は事業性を主張しにくいため、そもそも計上しない前提で考えます。

交際費が前期より大きく増えた期は、支払先と摘要から1件ずつ確認し、次の3つに分けています。

  • A:指摘される可能性が高いもの(洋服・靴・メガネ・ゴルフ用品など)
  • B:今ある資料だけでは説明しきれないもの
  • C:事業として説明できるもの

Bは「認められない」と決まったという意味ではなく、資料が足りないという意味です。金額を削る前に、領収書の裏へ相手先を1行書き足すなどして、BをCに移す作業を優先します。

交際費等は、法人税の計算で損金にできる額に上限があります。資本金1億円以下の法人(大法人の完全子会社などを除く)は、年800万円までの定額控除か、接待飲食費の50%のいずれか有利なほうを選べます。

800万円の枠は、令和9年3月31日までに開始する事業年度が対象です。事業年度が12か月未満なら、月数で按分します。

交際費の一部を会議費に振り替える場合は、参加人数が実際に裏づけられるものだけを対象にします。会議費は上限の対象外ですが、年間の交際費が800万円の枠に収まる会社では、振り替えても税額はほとんど変わりません。

1人あたり1万円以下の飲食費は、飲食の日付、参加者の氏名と関係、人数、店名と所在地などを記した書類を保存すれば交際費から除けます。令和6年4月1日以後の支出が対象で、社内の役員・従業員だけの飲食は対象外です。

1万円以下かどうかは、会社が採用している消費税の経理方式(税抜か税込か)で計算した金額で判定します。免税事業者は税込金額で判定します。

ただし1万円という基準は形式の線引きにすぎません。参加人数を裏づけられない支出は、交際費のまま残します。

福利厚生費として制度化するかどうかは、何で決めるか?

同じ要件に当てはまる従業員全員に、同じ基準で払い続けられるかで決めます。就業規則に定めると、その要件に当てはまる従業員には同じ基準で支給する義務が生じるためです。

たとえば引っ越し費用の手当でも、就職や転任に伴う転居のための旅費で通常必要な範囲のものは、就業規則の有無にかかわらず所得税では非課税です。

これに当たらない手当を就業規則に書くと、要件や上限を定めない限り、金額が大きい手当ほど将来の会社負担が重くなります。社員を大きく増やす計画がないなら、給与に上乗せして課税する処理にとどめる判断もあります。

出張の日当(食事代などに充てる定額の手当)も同様です。旅費規程で役員だけ高く従業員は低いままにすると、通達が求める「役員と使用人の全体を通じて適正なバランスが保たれている基準」を満たさないと判断されやすくなります。

日当が非課税で通るのは、役員と従業員の全体を通じてバランスの取れた基準で、同業同規模の会社と比べて相当な額の場合です。

法人カードに私的利用が混ざるとき、按分より先にすべきことは何か?

カードを法人用と個人用に分け、私的な支出と事業経費が混ざるのを止めます。ある事例では、分けた月に役員貸付金の残高が実際に減り、効果が数字で表れました。

効果は2つです。

  • 仕訳数が減り、記帳の手間が減る
  • 税務調査での説明負担が減る。私的な決済が最初から混ざっていなければ、1件ずつ説明を求められずに済む

よくある質問(FAQ)

Q. 按分率は一度決めたら固定ですか?

A. 利用の実態が同じである限り期中では変えず、決めた根拠を書面に残します。実態が変わったときに見直します。客観的な算出根拠があれば、費目ごとに違う率を使ってもかまいません。

Q. 個人事業のときの按分率を、法人でもそのまま使えますか?

A. そのまま引き継ぐのではなく、法人として業務に使う面積や時間を測り直して根拠を作ります。契約名義を法人に変えるなら計算のしかたも変わるため、社宅にするかどうかもあわせて決めます。

Q. 按分の根拠は、どんな形で残せばよいですか?

A. 業務に使う範囲と面積を書き込んだ間取り図、使用時間の記録、決めた割合と理由を書いたメモなどです。後から第三者が見ても計算をたどれる形にしておきます。


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※本記事は2026年10月時点の公開情報にもとづく一般的な解説です。個別の取扱いは事実関係により結論が変わるため、実行前に税理士へご確認ください。

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内容は掲載時点の制度・実務に基づきます。制度改正があった記事は更新日を改めて記載します。
佐久間 元気

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佐久間 元気

代表 / 税理士・公認会計士

公認会計士試験合格後、PwCを経てNOMERA会計事務所を設立。月次の数字を経営判断につなげ、税務・労務・法務・融資までを一つの窓口で整理する体制を設計

税理士登録番号:149427 / 公認会計士登録番号:043719

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