受託開発・SES向け税理士の選び方——毎月の運用が回っているかを、試算表で確かめる方法

佐久間 元気

佐久間 元気

代表 / 税理士・公認会計士

受託開発・SES|税理士選び|詳しさではなく試算表で見極める

この記事の要点

  • 会計処理自体はIT特有というより他業種と共通する部分が多い。実際に効くのはITリテラシーの差から生まれる日々の摩擦で、聞きづらさは相談の減少を招き、やがて税務の精度に返ってくる。
  • 確認されないまま積み上がりやすいのは売上計上のタイミング/外注への源泉徴収/国外プラットフォームへの支払い/仕入の支払サイクルの4つ。どれも毎月判断が発生し、間違えたまま積み上がる。
  • 毎月回っているかは、試算表の推移表を見れば自分で確かめられる。 4つの確認項目を本記事の後半に置いた。

IT企業が税理士に感じる不満は、実は「税務の間違い」じゃない?

多くの場合、決定的なミスではなく、やり取りのしにくさから生まれる小さなストレスが積み上がっています。

先に正直なところを書いておくと、会計処理そのものは、IT特有というより他業種と共通する部分が多いです。受託開発の収益認識は建設業の工事会計と考え方が近く、前受金や繰延の処理もITだけの話ではありません。だから「IT特有の論点を知っているか」という探し方は、思ったほど決め手になりません。

実際に効いてくるのは、むしろITリテラシーの差から生まれる日々の摩擦です。チャットで一行で済む話に電話がかかってくる。資料が郵送で届く。クラウド会計の画面を一緒に見ながら話せない。返事に数日かかる。一つひとつは小さいけれど、毎月積み上がります。

これは双方向の相性の問題でもあります。私たちの側から見ても、チャットやクラウドを使わない顧問先とは、確認一つに時間がかかり、やり取りが重くなります。どちらが良い悪いではなく、使っている道具と速度感が合う相手と組むほうが、互いに楽だというだけの話です。

そしてこの摩擦は、単なる快適さの問題では終わりません。聞きづらい相手だと、相談の回数が減ります。 その結果、本来なら確認が必要な論点が、確認されないまま毎月積み上がっていく。ITスキルの差は、最終的に税務の精度に返ってきます。

では、確認されないまま積み上がりやすいのはどんな論点か。具体的に見ていきます。

IT企業で実際に見落とされている論点は?

知識として語られることは多くても、毎月の処理で間違えたまま積み上がりやすい論点が4つあります。

① 売上と原価を「いつ」計上するか

受託開発は、案件をどう請け負っているかで売上の立ち方が変わります。請負契約では完成基準——成果物を納品して引渡しが終わった月に計上します。準委任契約では、役務の全部を完了した日に計上するのが原則ですが、月ごとに履行が完了していく契約なら、その都度計上することも認められます(SESのような月次精算の契約は後者になります)。支払いが翌月でも、売上は稼働月です。

中小企業の受託開発では完成基準が原則で、工事進行基準が強制されるのは長期大規模工事など限られた場合です。ここを取り違えると、期をまたぐ案件で利益の出方が実態とずれます。

あわせて、売上と対応する原価が同じ月に並んでいるかも確認が要ります。売上は今期、対応する外注費は来期、というズレが放置されていないか。

② 外注への源泉徴収は「業務の中身」で決まる

外注を使うIT企業でもっとも間違いが多いところです。源泉徴収の対象は法律で限定列挙されていて、契約の名前ではなく、実際に何の業務を提供したかで決まります。

  • 支払い先が法人 → 不要
  • 制作・編集(動画制作、デザイン等) → 必要
  • 運用代行(チャンネル運用、広告運用等) → 不要
  • 営業代行 → 内容によっては別の計算方法(外交員の特則)が適用される。当てはまるかは契約の名前ではなく実態で判断するため、判断が分かれるところです

同じ人に払っていても、制作費なら必要、運用代行費なら不要です。「業務委託だから源泉徴収する」という一律の理解でいると、対象外の人から引き、対象の人から引き忘れるという逆転が同時に起こります。

実際にこの逆転が起きていた事例では、誤りが4つの類型に分かれていました。源泉不要な人から誤って徴収していた分の請求書再発行、外交員の控除を適用せずに生じた未払金の精算まで含めて是正しています。

③ 国外プラットフォームへの支払いとリバースチャージ

Meta広告のように、国外の事業者からインターネット経由で提供される役務は「事業者向け電気通信利用役務の提供」に当たり、消費税のリバースチャージ方式の対象になります。

ここで注意が要るのは、多くの会社はこの申告自体が不要だという点です。申告が必要なのは、原則的な方法で消費税を計算していて、かつ課税売上割合が95%未満の会社に限られます。簡易課税を選んでいる場合も対象外です。

問題はその裏返しで、申告が不要な代わりに、その支払いを課税仕入れとして控除することもできないことです。広告費を通常の国内取引と同じように処理して控除してしまう——広告運用やマーケティング支援の会社で、非常に多い誤りです。

④ 仕入の支払サイクルのずれ

ライセンスの仕入や商品の仕入があると、支払条件の違いがそのまま月次の損益のゆがみになります。支払った月に仕入を計上していると、支払サイクルが翌々月の取引では売上と原価が2か月ずれます。

売上を計上した月は原価が乗らないので利益が大きく見え、支払った月は対応する売上がないので利益が小さく見える。どちらの月も実態を表していません。

実際に、ある月の利益が実態より約45万円多く計上される状態になっていた事例があります。毎月の仕入を買掛金で計上し、支払時に消し込む処理へ切り替えて解消しました。

「論点を知っている」だけでは足りない?

はい。知識よりも、それを毎月の運用として正しく回し続けられているかのほうが、実務では効きます。

論点を語れる税理士は少なくありません。ですが、上の4つはいずれも契約ごと・案件ごと・支払ごとに毎月判断が発生します。日々の記帳と月次でちゃんと処理できていないと、正しい知識があっても数字はズレていきます。

こわいのは、そのズレが決算後に初めて発覚することです。期中は問題なく見えていたのに、決算を締めてから計上のやり直しや想定外の税負担が判明する——乗り換えのご相談では珍しくありません。

毎月回っているかを、自分で確かめる方法はある?

あります。試算表の推移表を開いて、4つ確認してください。

月次の試算表を受け取っているなら、貸借対照表と損益計算書を月ごとに横に並べた推移表を出してもらいます。そのうえで、次を見ます。

  • 社長の利益の感覚と、会計の利益が近いか。 これが一番大事です。「今月は手応えがあった」と感じた月に利益が出ていない、逆に実感のない月に利益が大きい——そのズレは、計上タイミングか原価の対応のどちらかが崩れているサインです。感覚のほうが正しいことも少なくありません。
  • 普通預金の残高が、実際の通帳残高と合っているか。 合っていなければ、取り込まれていない取引があります。
  • 売掛金・未払金が、ずっと同じ金額で残り続けていないか。 消し込みが止まっているサインです。
  • 会社から代表に出ているお金がないか。 役員貸付金、短期貸付金、あるいは役員借入金がマイナス——科目名は事務所によって違うので、名前ではなくお金の向きで見てください。金融機関からは実態のない資産と見られます。

この4つは専門知識がなくても確認できます。どれかで引っかかるなら、論点を知っているかどうか以前に、毎月の運用が回っていません。

その事務所は「IT企業向けにDXされている」か?

事務所自体の体質は、いくつかの分かりやすいサインに表れます。

  • クラウド会計の公認パートナーか。 freeeやマネーフォワードの認定アドバイザー・公認メンバーであることは、クラウド会計に取り組んでいる目安になります(ただしランクの高さが自社との相性を保証するわけではありません)。
  • チャットツールで動けるか。 Slack・Chatworkなどで日常的にやり取りできるか。連絡手段が事務所の動きの速さを映します。
  • AIを実務で使っているか。 freeeもマネーフォワードも、AIと会計ソフトを直接つなぐ仕組み(MCP=Model Context Protocol)を提供し始めています。記帳の自動化や月次の可視化に使えているかは、これからの差になります。
  • 顧問先にIT企業が多いか。 同業を数多く見ているほど、業種特有の勘所が溜まります。

税務だけの事務所で足りる?

IT企業の経営には税務単体では足りない場面が多く、周辺まで組み合わせられる事務所が有利です。

成長するIT企業は、税務と同時に労務(採用・社会保険・就業規則まわり)や、資金調達(融資・補助金)の判断を迫られます。「税務は見るが労務や補助金は範囲外」という事務所だと、そのたびに相談先を探すことになります。

NOMERAでは、顧問契約の範囲内で労務・法務のご質問も一問一答形式で承っています(内容により社会保険労務士・弁護士など専門士業への連携をご案内する場合があります)。融資・補助金についても、顧問契約の範囲内で計画書の添削まで対応しています。

契約前に何を質問すればいい?

実際に任せる前に、次を聞いてみてください。

  • 「うちは受託開発(またはSES/SaaS)ですが、請負と準委任で売上計上のタイミングはどう変わりますか」
  • 「外注先への支払いで、源泉徴収が必要な人と不要な人をどう判定しますか」
  • 「海外の広告プラットフォームに払っている費用は、消費税でどう扱いますか」
  • 「毎月の記帳・月次はどんな体制で回しますか。決算前に数字が固まりますか」
  • 「freeeやマネーフォワードは公認パートナーですか。AI連携で自動化している業務はありますか」
  • 「税務以外に、労務や融資・補助金はどこまで相談できますか」

答えが具体的で、論点・運用・DX・サービスの幅を自分の言葉で語れるなら、それが「IT業界に強い税理士」のサインです。


よくある質問(FAQ)

Q. IT業界に強いかどうかを、契約前に見分ける一番簡単な方法は?

A. 自社の事業モデル(受託開発/SES/SaaSなど)を伝えて、売上・原価の計上タイミングと月次の回し方を具体的に聞くことです。抽象的な一般論しか返らない、あるいは用語が通じない場合は、業種の土地勘が薄い可能性があります。

Q. いま契約している税理士が「毎月回せているか」を確かめる方法は?

A. 試算表の推移表を出してもらい、①社長の利益の感覚と会計の利益が近いか ②普通預金の残高が通帳と合っているか ③売掛金・未払金が滞留していないか ④会社から代表に出ているお金がないか、を見てください。専門知識がなくても確認できます。

Q. freeeの認定ランクやマネーフォワードの公認メンバーなら安心して選べますか?

A. クラウド会計に取り組んでいる目安にはなりますが、それだけでは足りません。ランクはソフトの習熟度を示す指標で、自社の業務との相性や毎月の運用の確かさまでは保証しません。

Q. 外注が多いのですが、源泉徴収の判定を毎回相談するのは現実的ですか?

A. 毎回の相談ではなく、業務の種類ごとの判定表を一度作るのが実務的です。新しい外注先が増えても、その表で判定できます。請求書の記載と実際の振込額を一致させるルールも、あわせて決めておきます。ただし判断が分かれる業務もあるので、表を作る段階で税理士とすり合わせてください。


NOMERAは、受託開発・SES・広告・ECなどデジタル領域の企業に特化した、東京・西新宿の会計事務所です。オンラインで全国対応しています。

受託開発・SES・SaaSの税務顧問について、いまの体制のどこが詰まっているかを試算表を見ながら整理するところからご相談いただけます。

この記事の内容が自社に当てはまるかを確かめたい方は、お問い合わせフォームからご相談ください。

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※本記事は2026年8月時点の公開情報にもとづく一般的な解説です。個別の取扱いは事実関係により結論が変わるため、実行前に税理士へご確認ください。

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内容は掲載時点の制度・実務に基づきます。制度改正があった記事は更新日を改めて記載します。
佐久間 元気

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佐久間 元気

代表 / 税理士・公認会計士

公認会計士試験合格後、PwCを経てNOMERA会計事務所を設立。月次の数字を経営判断につなげ、税務・労務・法務・融資までを一つの窓口で整理する体制を設計

税理士登録番号:149427 / 公認会計士登録番号:043719

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