BtoB向けサービス業(年商4,000万〜6,000万円)|事前確定届出給与1,000万円を「債務と相殺」しようとして、全額損金不算入の一歩手前で止めた

佐久間 元気

佐久間 元気

代表 / 税理士・公認会計士

事前確定届出給与|設計の確認|事前確定給与は相殺では払えない

※特定を避けるため、一部の情報・数値を調整しています。(2026年7月時点)

この事例の要点

BEFORE

前任税理士と財務コンサルタントの助言で作られた設計案。事前確定届出給与1,000万円を届け出し、期末に代表への貸付金と相殺して済ませる内容だった

AFTER

全額を実際に振り込み、受け取った本人が別途会社へ返済する順序に修正。全額損金不算入になる手前で止めた

相殺で済ませる計画 → 要件を切り分け → 振り込んでから返済する順序へ

NOMERAがしたこと

定期同額給与と事前確定届出給与で「実際の支払い」の要件が違うことを切り分け、相殺では要件を満たさないと指摘。支給日の資金と、社宅の有無が報酬水準に与える影響もあわせて確認

項目 内容
業種/事業モデル BtoB向けサービス業(商材販売・採用支援)
規模 年商4,000万〜6,000万円(月商300万円→500万円超の見込み)
会計ソフト マネーフォワード
相談のきっかけ 役員報酬と事前確定届出給与の設計案を、届出前に確認したい
主な施策 相殺では支給要件を満たさないとの指摘/支給日の資金の確認/社宅の有無を含めた報酬水準の検討
成果 1,000万円の事前確定届出給与が全額損金不算入になるリスクを回避。役員社宅で受け取るべき賃貸料相当額の処理の誤りも発見

この事例の要約(3文)

財務コンサルタントの紹介で税理士を変更した顧問先で、引き継いだ時点ですでに、前任税理士と財務コンサルタントの助言をもとにした報酬設計案が作られていた。役員報酬を月100万円とし、さらに事前確定届出給与1,000万円を届け出して、期末に代表への貸付金と相殺する——という内容だった。

定期同額給与は支払いがなくても後で清算すれば済む場面がある一方、事前確定届出給与は届け出た日に届け出た金額を実際に振り込む必要があり、債権債務の相殺では要件を満たさないことを届出前に指摘し、全額を実際に振り込んだうえで本人が別途返済する順序に改めた。

相談前に起きていたこと

財務コンサルタントが入っており、その紹介で税理士を変更する流れだった。引き継いだ時点で、前任税理士と財務コンサルタントの助言をもとに、すでに役員報酬の設計案が作られていた。

内容はこうだった。役員報酬を月100万円(年収1,200万円、手取りは月約78万円の見込み)とし、加えて事前確定届出給与1,000万円を届け出す。そのうえで、代表が会社に対して負っている債務(役員借入金の逆、つまり会社から見た貸付金)が期末に残っていれば、事前確定届出給与と相殺して消し込む。

帳簿上はきれいになり、現金も動かない。一見合理的に見える計画だった。

何が原因だったか

定期同額給与と事前確定届出給与で、「実際の支払い」の意味が違うことです。

役員報酬は未払いにしてもどこかで清算すれば扱いが認められる場面があるため、事前確定も同じ感覚で相殺でいけると考えてしまう。帳簿上はきれいになり、現金も動かないので、合理的な処理に見える。

この違いは、届出を出す前に知らなければ意味がない。届出後に気づいても、支給日と金額は変えられません。

そしてこの件では、設計案を作ったのは顧問先ではなく、前任税理士と財務コンサルタントだった。顧問先の立場からすれば、専門家が作った案なのだから問題ないと考えるのが自然です。乗り換えの直後は、こうした「前任から引き継いだ進行中の設計」を、実行前に確かめられるかで結果が変わります。

NOMERAが変えたこと

相殺では要件を満たさないと指摘した。 事前確定届出給与は、届け出た日に、届け出た金額を、実際に振り込むことが要件であり、債権債務の相殺で済ませることはできない。

定期同額給与とはここが決定的に違う。届出どおりでなければ差額ではなく全額が損金不算入になるため、1,000万円丸々が損金にならない事態になり得た。

正しい順序に改めた。 まず全額を実際に振り込み、そのうえで受け取った本人が、会社への債務を別途送金して返済する。結果の数字は似ていても、支給の事実が残るかどうかで扱いが変わる。

支給日の資金を確認した。 全額を振り込む以上、その日に1,000万円を支払える現金が必要になる。月商の見通し(実績300万円レベルから500万円超へ)と照らし、支給日に支払余力があることを確かめたうえで進めている。

社宅の有無を先に確認した。 社宅にできるかどうかで、個人が必要とする手取りが変わり、役員報酬の水準に直接影響するからだ。確認の過程で、会社が家賃の大部分を負担する形で社宅としていた一方で、役員から受け取るべき金額が雑収入として計上されていないことが分かった。

役員に社宅を貸す場合、役員から「賃貸料相当額」を受け取っていれば給与として課税されない。この金額は固定資産税の課税標準額をもとに計算する。つまり受け取っていることが帳簿上確認できなければ、前提が崩れる。地代家賃と相殺されている可能性があり、こちらも確認対象に加えた。

解決したこと(事実)

  • 1,000万円の事前確定届出給与が全額損金不算入になるリスクを、届出前に回避した。 相殺ではなく、実際に振り込んでから返済する順序に改めた。
  • 支給日の資金を確認したうえで水準を決めた。 月商の見通しと照らし、支払余力のある金額にしている。
  • 役員社宅で受け取るべき賃貸料相当額の処理の誤りを発見した。 本来は雑収入として計上すべき金額が計上されておらず、地代家賃と相殺されている可能性を指摘した。

同じ状況の方へ

事前確定届出給与をこれから届け出すなら、支給予定日の前後1か月の資金繰りを並べてください。

見るのは1点だけです。その日に、届出額の全額を振り込めるか。

  • 余裕を持って振り込める → 問題ありません
  • ギリギリ、または入金予定に依存している → 届出額を下げる検討をしてください。入金が1日ずれれば支給できなくなります
  • 支給日を決めていない → 資金に余裕のある月を先に探してから届出を作ります

届出と違えば差額ではなく全額が損金不算入になります。1円でも1日でもずれれば同じです。だから金額を決める段階で保守的に見る必要があります。

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この事例に関するFAQ

Q. 届出どおりに支給できなかった場合、足りない差額だけが損金不算入になるのですか? いえ、全額が損金不算入になります。1円でも、1日でも、届出と違えばその支給全体が対象外となるため、金額を決める段階での保守性が重要になります。

Q. 支給日を複数回に分けることはできますか? 届出に複数の支給日と金額を記載することはできます。ただしそのすべてを届出どおりに実行する必要があり、一部でもずれれば取扱いに影響します。分けるほど実行の管理が必要になります。

Q. 役員報酬を未払いのままにしておくのは問題ないのですか? 定期同額給与については、未払い計上して後日清算する形もあり得ます。ただし未払いが長期化すると、源泉徴収のタイミングや、実態として報酬と言えるかという問題が出てきます。事前確定届出給与とは扱いが異なる点に注意が必要です。

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佐久間 元気

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佐久間 元気

代表 / 税理士・公認会計士

公認会計士試験合格後、PwCを経てNOMERA会計事務所を設立。月次の数字を経営判断につなげ、税務・労務・法務・融資までを一つの窓口で整理する体制を設計

税理士登録番号:149427 / 公認会計士登録番号:043719

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