免税から課税事業者になる年にだけ使える調整——期首棚卸資産の消費税を見落としていませんか

佐久間 元気

佐久間 元気

代表 / 税理士・公認会計士

消費税|棚卸資産の調整|在庫を持ったまま課税事業者になる年

この記事の要点

  • 免税事業者から課税事業者になる年には、その年しか使えない調整がある。免税期間に仕入れて課税期間へ繰り越す在庫(期首棚卸資産)に係る消費税は、仕入控除税額の計算に含められる。
  • ただし、これは一般課税(本則課税)で申告する場合の仕組み。簡易課税を選ぶと期首在庫は納付額に影響しないため、在庫が多い年ほど計算方法の選択そのものが効く。届出の期限は原則として課税期間が始まる前。
  • あわせて確認したいのが売掛金の課税区分。モール連携と銀行連携を両方使っていると、設定によっては売上が二重に課税対象として拾われ、仮受消費税が過大になっていることがある。

なお、この調整が効くのは在庫を持つ事業です。 仕入在庫のない受託開発・SESでは、適用の場面はほとんどありません。EC・物販や、機材・ライセンスを仕入れて在庫として持つ事業が対象です。一方、後半で触れる売掛金の課税区分の課題は、在庫の有無にかかわらずモール・決済代行を使っている事業に共通します。


免税事業者から課税事業者になるのは、いつか?

原則として、2期前の課税売上高が1,000万円を超えた年です。ただし、それだけではありません。

個人事業なら2年前、法人なら2期前の課税売上高で判定します(基準期間)。ここが1,000万円を超えれば、その年(期)から課税事業者です。

見落とされがちなのが、2期前が1,000万円以下でも課税事業者になるルートがあることです。直前期の前半6か月(特定期間)の課税売上高が1,000万円を超えると、その期から課税事業者になります。売上が急に伸びた年は、予想より1年早く課税事業者になることがあります。(法人の特定期間は原則として前事業年度開始の日以後6か月です。前事業年度が7か月以下の場合は、別の取り方をします。)

(なお、この特定期間の判定は課税売上高に代えて給与等の支払額で行うこともできます。ただし半年で給与が1,000万円を超える規模は限られるため、少人数の会社では実際に使える場面は多くありません。)

インボイス発行事業者の登録をした場合は、売上規模にかかわらず課税事業者です。

問題は、課税事業者になる初年度に特有の論点があることです。以下、順に見ていきます。

「免税のときに仕入れた在庫」に消費税は関係ない?

逆です。免税事業者の期間に仕入れて課税事業者の期間へ繰り越す在庫については、その棚卸資産に係る課税仕入れ等の税額を、課税事業者になった期の仕入控除税額の計算に含められます。

ここは誤解が多いところです。「免税事業者だったときに仕入れたのだから、消費税の計算には入らない」と考えてしまいがちですが、実際には控除できる側に働きます——つまり、納める消費税が減る方向です。

理屈はこうです。免税事業者の期間は、仕入にかかった消費税を控除できませんでした。その在庫を課税事業者になってから売ると、売上には消費税がかかります。仕入で控除できず、売上では課税されるという不整合を調整するための仕組みです。

一般課税で申告するのにこれを見落とすと、その分だけ不利になります。 在庫を持つ事業ほど金額が大きくなります。EC・小売のほか、機器やパッケージ製品を仕入れて販売している事業でも同じです。

実際に、免税から課税事業者になる初年度を迎えたEC物販の事業者で、期首棚卸資産 約1,000万円分についてこの調整を行った例があります。売掛金の課税区分の是正とあわせて、会計ソフト上は納付見込みだった消費税が約150万円の還付に転じました(一般課税での申告)。

簡易課税を選んでいる場合はどうなるか?

この調整は使えません。簡易課税では、期首在庫がいくらあっても納める消費税は変わりません。

簡易課税は、売上に係る消費税額に事業区分ごとのみなし仕入率を掛けて仕入控除税額を計算する制度です。実際の仕入額を使わない計算方法なので、期首棚卸資産の調整も入り込む余地がありません。

つまり、在庫を抱えたまま課税事業者になる年は、計算方法の選択そのものが結果を左右します。みなし仕入率だけを見て簡易課税が有利に見えても、期首在庫の調整分まで含めて比べないと判断できません。

そして、この選択には期限があります。簡易課税の適用を受けるには「消費税簡易課税制度選択届出書」を、原則としてその課税期間の初日の前日までに提出する必要があります。期が始まってからでは動かせません。(免税事業者が令和5年10月1日から令和11年9月30日までの日の属する課税期間中にインボイス発行事業者の登録を受け、その登録日から課税事業者となる場合は、登録を受けた日の属する課税期間中の提出でも間に合う特例があります。この特例は令和11年9月30日で終わります。2026年9月時点)

自分がどちらなのかは、届出書の控えで確かめられます。

  • 「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出しておらず、控えも見当たらない → 一般課税です。期首在庫の調整を検討してください
  • 提出している → 簡易課税です。この調整は使えません。在庫が大きいなら、取りやめの可否(提出の期限のほか、継続して適用する期間の制限があります)を税理士に確認してください
期首棚卸資産の調整、使えるのはどちら?
計算方法
期首棚卸資産の調整
一般課税(本則課税)
調整あり:期首在庫の消費税を仕入控除税額に含められる
簡易課税
調整なし:みなし仕入率で計算するため在庫の金額は影響しない

在庫が多いほど有利になるのか?

一般課税で申告する場合は、期首在庫の規模に応じて調整額も大きくなります。ただし、これは免税から課税へ移る期にのみ使える調整です。

毎年使えるものではありません。逆に、課税事業者から免税事業者に戻る場合は、免税事業者となる日の前日の属する課税期間中に仕入れて手元に残っている分について、控除から除く調整が必要になります。方向が逆になる点に注意が要ります。

また、この調整を受けるには棚卸資産の明細を記録した書類を作って保存しておくことが前提です(その書類を作成した日の属する課税期間の末日の翌日から2か月を経過した日から7年間)。決算のときになって「在庫がいくらあったか分からない」という状態だと、そもそも適用できません。

在庫の金額が分からない場合はどうするか?

日々の仕入を台帳に記録し、手元に残っている数量まで管理できる状態を作ることが先です。

仕入の件数が膨大になる事業では、記録が追いつかないと期末在庫が把握できなくなります。実際、前年度の棚卸資産の記録が所在不明になり、期末在庫を金額で答えられない状態になっていた事業者もいました。

対策としては、仕入台帳に次を記録できるようにします。

  • 仕入先・仕入経路ごとに分ける(実店舗、複数のネットモール)
  • 総額と、ポイントで支払った分を別欄にする
  • 仕入数量と、手元に残っている数量を両方記録する

在庫を金額で押さえられる状態にしておくことが、消費税の調整の前提になります。

確かめ方:前期末の棚卸資産の資料を開き、数量と金額が残っているかを見てください。

  • 金額を即答できる → 調整の前提は揃っています
  • 資料が見当たらない・古い → 期首在庫を金額で示せないため、調整は使えません。年末までに仕入台帳を整え、数量と金額を確定できる状態を作ってください

売掛金の課税区分も確認したほうがよい?

モール連携と銀行連携を両方使っている場合は、設定によって売上が二重に拾われることがあるため、確認してください。

ネットモールでの販売を会計ソフトに連携すると、「売掛金/売上(課税売上10%)」という仕訳が作られます。そのうえで銀行口座も連携していると、入金時に「普通預金/売掛金」という仕訳が作られます。

このとき、売掛金の回収側まで課税売上10%になっていると、売上が二重に課税対象として拾われます。結果として仮受消費税が過大になり、納める消費税が実際より多く計算されてしまいます。どの連携でどの課税区分が付くかは会計ソフトの設定によるため、必ずこうなるわけではありません。

確かめ方:試算表(貸借対照表)を開き、仮受消費税と仮払消費税の残高を並べて見てください。

  • 売上・仕入の規模に見合っている → 問題ありません
  • 仮受消費税だけが売上規模に比べて明らかに大きい → 決済経路の二重計上を疑ってください。モール連携と銀行連携を両方使っているなら、売掛金の回収側(普通預金/売掛金)の課税区分を会計事務所に見てもらってください

消費税の還付を受けると、税務調査が来やすくなる?

還付が出ると目につきやすいのは事実です。ただし、処理が正しければ大きな金額を否認されることはありません。

調査になった場合も、対応の大部分は税理士が行い、事業者の方はヒアリングに立ち会う形が中心です。金額の大きい仕訳ほど根拠を残しておくことが、実務上の備えになります。

還付を受けられる状態なのに、調査を恐れて申告しないという判断は本末転倒です。正しい処理であれば、堂々と受けてよいものです。


よくある質問(FAQ)

Q. 免税事業者のときに仕入れた在庫に、消費税は関係ないのでは?

A. 逆です。免税事業者の期間に仕入れ、課税事業者の期間に繰り越す在庫は、その棚卸資産に係る課税仕入れ等の税額を仕入控除税額の計算に含められます。一般課税で申告する場合に、見落とすとその分だけ不利になります。

Q. 簡易課税でもこの調整は使えますか?

A. 使えません。簡易課税は売上に係る消費税額にみなし仕入率を掛けて仕入控除税額を計算するため、期首在庫の金額は納付額に影響しません。在庫が大きい年は、簡易課税を選ぶかどうかがそのまま結果に響きます。 届出の期限は原則としてその課税期間の初日の前日です。

Q. この調整は毎年使えますか?

A. 免税から課税へ移る期のみの調整です。逆に課税事業者から免税事業者に戻る場合は、免税事業者となる日の前日の属する課税期間中に仕入れて手元に残っている分について、控除から除く調整が必要になります。

Q. 棚卸の記録がない場合はどうなりますか?

A. 適用の前提が満たせません。課税事業者になる期の期首在庫を金額で示せる資料が必要です(棚卸資産の明細を記録した書類の保存が要件とされています)。日々の仕入を台帳で管理し、期末に数量と金額を確定できる状態を作っておいてください。

Q. 消費税の還付を受けると税務調査が来ますか?

A. 目につきやすいのは事実ですが、処理が正しければ大きく否認されることはありません。金額の大きい仕訳ほど根拠を残しておくことが備えになります。


NOMERAは、受託開発・SES・広告・ECなどデジタル領域の企業に特化した、東京・西新宿の会計事務所です。オンラインで全国対応しています。

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※本記事は2026年9月時点の公開情報にもとづく一般的な解説です。個別の取扱いは事実関係により結論が変わるため、実行前に税理士へご確認ください。

参考文献

(2026年9月9日に原典で確認)

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内容は掲載時点の制度・実務に基づきます。制度改正があった記事は更新日を改めて記載します。
佐久間 元気

AUTHOR

佐久間 元気

代表 / 税理士・公認会計士

公認会計士試験合格後、PwCを経てNOMERA会計事務所を設立。月次の数字を経営判断につなげ、税務・労務・法務・融資までを一つの窓口で整理する体制を設計

税理士登録番号:149427 / 公認会計士登録番号:043719

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