※特定を避けるため、一部の情報・数値を調整しています。(2026年7月時点)
この事例の要点
設立時の目的が2つとも消滅。法人の売上は年60万〜100万円まで縮小し、年末調整・法人税・決算の作業だけが残った
「畳む」ではなく「マイクロ法人として維持」を選択。健康保険だけで年40万円以上の差があると判明
法人を持つ理由を、金額に換算できるかで仕分ける
健康保険(会社負担・本人負担の合計で年24万円程度。国保に移ると年66万〜90万円程度、差は年40万円以上)/社宅(賃貸料相当額のみ課税、会社負担が8〜9割になる)/旅費規程(日当を非課税で支給)
取引先(法人相手)からの信用/融資を受ける際の経営者保証の解除。判断材料として金額換算分と並べる
法人にもともとある年60万〜100万円の事業をそのまま続け、マイクロ法人として運用する。個人事業から売上を付け替えるのではなく、法人自身の契約・請求・入金で事業実態を保つ。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 業種/事業モデル | 受託開発(Web制作・アプリ開発)。個人事業と一人法人の二刀流 |
| 規模 | 個人・法人の合計で年商2,000万〜2,500万円 / 代表1名 |
| 会計ソフト | マネーフォワード |
| 相談のきっかけ | 法人を作った当初の目的が両方なくなり、持ち続ける意味があるのか分からなくなった |
| 主な施策 | 法人の存在意義を1つずつ棚卸しして金額に換算/切り分けられる事業を法人に移して実体を持たせる/赤字の処理方法の選択 |
| 成果 | 健康保険だけで年40万円以上の差があると判明し維持を選択。赤字の処理は還付額が少ない方をあえて選び、将来の所得移転に備えた |
この事例の要約(3文)
個人事業と一人法人を並行して回していた受託開発の事業者で、法人を設立した当初の2つの目的——自社サービスを育てて売却する構想と、取引先の補助金申請で発注先として法人格が必要だった事情——がどちらも消え、法人の売上は年60万〜100万円まで縮小していた。
法人を持つ理由を1つずつ挙げ直し、健康保険・社宅・旅費規程は金額に換算し、取引先からの信用や経営者保証の解除といった金額にできないものは判断材料として並べた。
健康保険だけで年40万円以上の差が出ることが分かり、法人に残っている事業をそのまま続けてマイクロ法人として維持する判断をし、あわせて法人の赤字は還付額が少ない繰越控除をあえて選び、将来の所得移転に備えた。
相談前に起きていたこと
法人を作った理由は2つあった。自社で開発したサービスを育てて売却する構想と、取引先が補助金を申請する際に発注先として法人格が必要だったこと。前者は業界の先行きが見えなくなって立ち消え、後者は案件が完了して役目を終えた。
気づけば法人の売上は年60万〜100万円まで縮小し、残っているのは年末調整・法人税の申告・決算という毎年の作業と、引越しのたびに登記が要る面倒だけだった。
何が原因だったか
「法人を作る理由」は調べれば出てくるのに、「作った後、その理由が消えたときにどうするか」はどこにも書いていないことです。設立の判断は、ネットでも税理士でも、相談すれば答えが返ってきます。
しかし維持するか畳むかは、相談する場面そのものがない。決算のたびに「今年も申告しますね」で過ぎていきます。結果、惰性で維持するか、手間を理由に感覚で畳むかの二択になります。どちらも金額を見ていません。
NOMERAが変えたこと
法人を持つ理由を1つずつ挙げ直し、金額に換算できるものは換算し、できないものは分けて並べた。
換算できたもの——健康保険は、法人から社会保険に入る場合は会社負担・本人負担を合わせて年24万円程度。法人を畳んで国民健康保険に移ると年66万〜90万円程度。差は年40万円以上。社宅は、法人が借りて役員に貸す場合、役員から「賃貸料相当額」を受け取っていれば給与として課税されない。
この金額は固定資産税の課税標準額をもとに計算し、小規模な住宅なら実際の家賃の1〜2割程度になることが多く、結果として会社負担が8〜9割になる(個人事業の家事按分ではここまでの割合は難しいのが通常)。旅費規程は、月1回程度の遠方移動に対し、日当を非課税で支給できる(規程の整備と実際の運用が前提)。
換算できないもの(判断材料として併記)——取引先(法人相手)からの信用、融資を受ける際の経営者保証の解除。対する負担として、年末調整・法人税の申告・決算という毎年の作業、転居のたびに必要になる登記も並べた。
そのうえで「畳む」ではなく「法人をマイクロ法人として維持する」方針を選んだ。法人にはもともと年60万〜100万円の売上があり、それをそのまま法人の事業として続ける形です。個人事業から売上を付け替えたわけではない。
規模は小さくても、法人自身の契約で、法人名義で請求し、法人の口座に入金されている事業があることが大切です。これがあれば、社会保険や社宅・旅費規程の前提となる事業実態を備えられます。
解決したこと(事実)
- 法人を維持するか畳むかを、感覚ではなく金額で判断できた。 健康保険だけで年40万円以上の差が出ることが分かり、維持を選択。作業の手間という「なんとなくの負担感」と、実際の金額を同じ土俵に並べられた。
- 法人をマイクロ法人として維持する方針に切り替えた。 法人にはもともと年60万〜100万円の売上があり、その事業をそのまま法人で続けることで、社会保険や社宅・旅費規程の前提となる事業実態を保った。
- 赤字の処理方法を、目先の還付額ではなく将来設計で選んだ。 法人2期目が約23万円の赤字となり、前期の税金を取り戻す「繰戻還付」なら約24万円、翌期以降に持ち越す「繰越控除」なら約19万円の還付。
- 繰戻還付のほうが約4万5千円多く戻るが、今後、個人事業の所得を法人に移していく方針だったため、その利益と相殺できる繰越控除を選んだ。
- 役員報酬は、月額8万円台の定期同額給与と事前確定届出給与550万円規模の組み合わせで設計した。
- 外注した開発費について、ソフトウェアとして資産計上が必要かを判定した。自社利用か販売目的かを切り分け、自社利用の場合の計上要件(業務目的で取得したか、将来の収益獲得または費用削減が確実か、金額・期間の面で資産と言えるか)に照らしたうえで、取引先に納品済みの受託開発であるため資産計上は不要と整理した。
同じ状況の方へ
法人の損益計算書を開いて、年間の売上から次の4つを引いてみてください。役員報酬、その社会保険料(会社負担分を含む)、社宅にしている場合の家賃負担、税理士費用。これが法人を持つだけでかかる費用です。
黒字になるなら法人側に実体のある事業があり、維持する判断が成り立ちます。赤字になるなら法人は「器」になっており、社会保険料が下がっても維持費で相殺される可能性があります。
そのうえで、国民健康保険料がいくらになるかを顧問税理士に試算してもらってください。国民健康保険料は自治体ごとに計算方法が違い、前年の所得や扶養の人数で大きく変わるため、自分で概算するのは難しいところです。
いま支払っている健康保険料(会社負担と本人負担の合計)と比べれば、畳むことで失う金額が年額で出ます。この2つを並べて、はじめて判断できます。作業の手間という「なんとなくの負担感」だけで決めないことです。
関連記事
- 受託開発・法人成り|役員報酬を2,000通り超シミュレーションし、利益±30%でも崩れない案を選んだ事例——同じ二刀流の検討で、正反対の結論になった事例。こちらは法人を一本化している。二刀流が成立する条件としない条件を、両方見て判断するために併せてお読みください
- マイクロ法人と個人事業主の二刀流は、どこで成立してどこで成立しないか——維持と一本化、正反対の2事例で見る——判断の手順を一般化した解説記事。本事例を含む正反対の2件をもとに、維持費を金額に換算する手順を示している
この事例に関するFAQ
Q. 売上が小さくなった法人は、畳んだほうがよいのですか? 金額で比べてから決めることをおすすめします。売上規模だけで判断すると、健康保険や社宅・旅費規程で失うものが見えません。逆に、それらを使う予定がないなら維持コストのほうが上回ります。
Q. 法人を残したまま、休眠にする選択肢はありますか? あります。ただし休眠中も均等割が課される自治体があり、役員貸付金などの残高が残っていると休眠時に整理が必要になります。畳む・休眠・維持の3択で比較するのが実務的です。
Q. 個人事業の売上を法人に移すことはできますか? 契約の当事者を法人に切り替え、実際の業務も法人が行う形にすれば可能です。名目だけ付け替えると否認のリスクがあるため、契約書・請求書・入金口座を揃えて実体を伴わせる必要があります。
ご相談について
NOMERAは、受託開発・SES・広告・ECなどデジタル領域の企業に特化した、東京・西新宿の会計事務所です。オンラインで全国対応しています。
掲載している事例と近い状況にお心当たりがあれば、一度ご相談ください。
※顧問契約を前提としており、決算申告のみ・記帳代行のみのご依頼はお受けしていません。
※顧問料は事業モデルと記帳体制で変わるため、個別のお見積りです。




