一人法人・少人数法人の社会保険——加入のラインと役員報酬の決め方、扶養との両立

佐久間 元気

佐久間 元気

代表 / 税理士・公認会計士

社会保険|役員報酬:加入のラインと役員報酬の決め方

この記事の要点

  • 一人社長でも、役員報酬を出せば原則として自社で社会保険に加入します。登記の有無や他社での加入にかかわらず、報酬を受けて経営に参画している実態で判断されます。
  • 加入を避けて役員報酬をゼロにし続けると、生活費に回した分が会社から代表者への貸付金として積み上がり、融資審査で不利に働くことがあります。
  • 社会保険料を抑えた役員報酬は、法人の経費にできない生活費を積み上げ、標準報酬月額の等級表と突き合わせて決めます。
  • 配偶者を役員にして所得を分散するなら、実際に業務に従事している実態が判断の起点です。

一人法人の社会保険の論点と、その期限

この記事で扱うのは、社会保険の加入手続き、標準報酬月額、定期同額給与、事前確定届出給与、健康保険の被扶養者、配偶者控除の6つです。それぞれが何の制度で、いつまでに何をするかを先に整理します。

  • 社会保険の加入手続き:役員報酬を受ける役員がいる法人は、健康保険・厚生年金保険の適用事業所です。新規適用届と資格取得届を、事実発生から5日以内に年金事務所へ出します。
  • 標準報酬月額:報酬月額を等級の区切りに当てはめた額で、保険料はこれに料率を掛けて決まります。毎年7月10日までに出す算定基礎届で、9月分から見直されます。
  • 定期同額給与(役員報酬):毎月同額で払う役員報酬は損金になります。金額を決めたり変えたりできるのは、原則として事業年度開始から3か月以内です。
  • 事前確定届出給与(役員賞与):支給日と金額を事前に税務署へ届け出て、そのとおりに払えば損金になる役員賞与です。届出期限は原則として、株主総会等の決議から1か月と、事業年度開始から4か月のいずれか早い日です。
  • 健康保険の被扶養者:家族を代表者の健康保険に入れる仕組みです。配偶者なら原則として年収130万円未満(60歳以上などは180万円未満)が目安です。
  • 配偶者控除:配偶者の給与収入が一定以下なら、代表者の所得税が軽くなる控除です。令和8・9年分は給与収入136万円以下が目安で、令和10年分以後は現行法では131万円以下です。

一人社長でも、社会保険への加入は避けられないのか?

原則として避けられません。役員報酬が発生した時点で、自社での社会保険の加入義務が生じるためです。

役員が加入の対象になるかは、経営に参画して継続的に業務を行い、その対価として報酬を定期的に受けているかといった実態で判断されます。他社ですでに加入していても、自社で役員報酬を出せば、原則として自社でも加入が必要です。

両方の会社で要件を満たすなら、2社で勤務するようになってから10日以内に「二以上事業所勤務届」を年金事務所などへ出し、両社の報酬を合算して標準報酬月額を決めます。

一方の会社では役員会に出て意見を述べる程度にとどまり、受け取るのも会議の対価や実費程度という非常勤の役員は、その会社では加入の対象になりません。ただし常勤か非常勤かは、肩書ではなく実態で判断されます。

年齢による例外として、厚生年金は70歳以上、健康保険は75歳以上では保険料がかかりません。75歳以上は後期高齢者医療制度に移り、その保険料は個人で負担します。

登記前に就任した役員の扱い

登記が済んでいない段階でも、加入の対象になるかは報酬の実態で判断します。役員は株主総会での選任決議、就任、登記の順で決まるため、報酬の起点は登記の日ではなく就任日です。

就任日が支給月の締め日より前であれば、当事務所ではその月から役員報酬として計算しています。

加入の手続きと確認のしかた

加入手続きは社会保険労務士の独占業務にあたるため、税理士事務所は代理提出できません。届出は会社が自ら年金事務所へ出すこともでき、役員1人の間は手続きの量も多くありません。

加入済みかどうかは、年金事務所から届く標準報酬月額の決定通知で確認できます。手続きも源泉徴収もないまま代表者が毎月一定額を受け取っていると、役員報酬の記録が残らず、会社から代表者への貸付として扱われる可能性があります。

役員報酬をゼロにすれば、社会保険料も避けられるのか?

代表者本人の加入は避けられますが、代わりに別のリスクを抱えます。なお、従業員を雇えば、会社としての加入手続きは必要です。

役員報酬をゼロにしたまま法人の売上を生活費に回し続けると、その分は会社から代表者への貸付金として残り続けます。

残高が積み上がると、金融機関の審査で説明を求められやすく、融資に不利に働くことがあります。実質的な役員報酬とみなされれば、税務調査では源泉徴収の漏れ、年金事務所の調査では社会保険料の徴収漏れとして、追加の負担が生じる余地もあります。

生活費を会社から出しているなら、ゼロのままにせず、次の節の手順で生活費に見合う役員報酬を決めます。決められるのは原則として事業年度開始から3か月以内なので、方針は期首のうちに固めます。

社会保険料を抑えた役員報酬は、どうやって決めるのか?

希望する手取り額からではなく、法人の経費にできない生活費を積み上げて決めます。役員報酬は上げるほど社会保険料の会社負担分も増えるため、必要な額を超えて取らないことが前提です。手順は次のとおりです。

  • 食費・医療費・教育費など、会社の経費にできない支出だけを月ごとに集計する
  • 交際費のように法人側で経費にできる可能性があるものは、生活費の集計から外す
  • 住居費は、法人契約にして社宅にできれば個人負担を下げられるため、別枠で検討する
  • 役員報酬前の法人利益の見込みを、悲観・通常・好調の3パターンで並べ、悲観の場合でも払い続けられる報酬の上限を見る

役員社宅にする場合は、所定の方法で計算した家賃を役員から受け取ることが前提で、下回ると差額が給与として課税されます。

代表者の役員報酬を所得税がかからない水準にする場合は、他社からの給与がないかと、代表者本人が家族の扶養に入る予定がないかを先に確認したうえで金額を試算します。紹介者などから聞いた「年◯万円以下なら所得税はかからない」という目安は、そのまま使いません。

等級表を見て金額を刻む

額面をキリのいい数字にするのではなく、標準報酬月額の等級表を見て、等級が変わらない範囲の上限に寄せます。等級表は協会けんぽや日本年金機構が公開しており、区切りや料率は改定されることがあるため、その年度の表で確かめます。

等級は、通勤手当や社宅などの現物給与も含めた報酬月額で決まります。同じ等級に収まる範囲で額面を上げても社会保険料は変わらないため、差額は所得税・住民税を除いて手取りの増加になります。

逆に減額する場合は、下の等級の範囲の上限に収まる金額を選びます。区切りを下回らない半端な減額では、保険料は元の等級のままで手取りだけが減ります。

報酬が低い水準でも考え方は同じです。2026年10月時点の等級表では、月8万円の報酬なら8万3,000円未満までは健康保険・厚生年金とも等級が変わらず、その範囲で上げても社会保険料は変わりません。

その分だけ法人の利益が減って法人税等が軽くなり、ほかに所得がなければ、個人の所得税・住民税の増加はわずかです。

改定の時期

改定は期首から3か月以内に決議し、決議後の支給分から新しい額にします。さかのぼった差額をまとめて払うと、その分は損金になりません。期中に改定できるのは、職務内容の大きな変更や経営状況の著しい悪化などの場合に限られます。

社会保険料は改定後すぐには変わりません。2等級以上動く場合は報酬が変わった月から4か月目に改定され、1等級の差なら毎年9月の定時決定まで変わりません。

月額を下げて賞与に寄せる社会保険料の圧縮は、使うべきか?

条件を満たせる会社に限って使います。成否は、事前確定届出給与の届出どおりに賞与を払い続けられるかで決まります。

仕組み:上限を超えた賞与には保険料がかからない

保険料のかかる賞与の額には上限があります。2026年10月時点では、厚生年金は賞与1回あたり150万円、健康保険は年度の累計で573万円です。

この上限を使うのが賞与寄せの仕組みです。月額報酬を下げ、その分を事前確定届出給与の賞与に回すと、上限を超えた部分には保険料がかかりません。

ただし減るのは上限を超えた部分だけです。役員報酬が年480万円の場合、そのうち220万円を1回の賞与にしても、減るのは150万円を超える70万円分の厚生年金保険料(労使合計で十数万円)で、健康保険料は減りません。

上限を超えた部分は将来の老齢厚生年金にも反映されず、月額を下げた分だけ傷病手当金などの給付も下がります。

使う前に確かめること

届け出た支給日と支給額のとおりに払わないと、1円・1日のずれでも、原則としてその賞与の全額が損金になりません。払えなかった賞与は、支払が確定した日から1年を経過すると支払ったものとみなされ、源泉徴収が必要になります。

月額を下げた分の生活費を会社の資金から出していると、役員貸付金が積み上がります。税務調査で実質的な賞与とみなされれば、法人税は減らないまま源泉所得税がかかり、社会保険料もかかりうる、最も不利な形になりえます。そのため、次の3点を先に確認します。

  • 支給日に、賞与額と社会保険料を合わせた預金残高が確実にあること
  • 届出どおりの支給日と支給額を1年先まで一切動かさずに管理できること
  • 毎月の貸借対照表に役員貸付金が積み上がって見えることを許容できること

利益の見込みが立たない設立1期目や、支出を報酬の範囲で賄えず差額が貸付金として積み上がる会社には向きません。近く住宅ローンを組む予定がある場合も避けます。金融機関によっては、月額を下げると審査で収入として判定される額が下がるためです。

当事務所では、採否を削減額の大小より「1年後にその日その金額を確実に払えるか」で決めています。設立1期目は原則として賞与を組み合わせず、年額を12で割った月額で設定しています。

配偶者を役員にして分散する場合、扶養とどう両立させるか?

実際に業務へ従事している実態があるかどうかが判断の起点です。夫婦で報酬を分けた方が所得税と社会保険料の合計が下がる場面はありますが、成り立つのは配偶者が実際に業務に従事している場合です。

ほとんど従事していないなら、当事務所では配偶者の報酬を扶養の範囲に収めたまま、増額の提案はしていません。目安は前提の節のとおりで、健康保険の被扶養者には、同居なら代表者の収入の半分未満といった要件もあります。

配偶者が役員として経営に参画し、報酬を経常的に受けている実態があれば、報酬が少額でも配偶者本人が被保険者になり、被扶養者ではいられなくなります。

一人法人を維持するか、畳んで国民健康保険に戻るかの分かれ目

年間売上から、役員報酬とその社会保険料、社宅の家賃負担、税理士費用を引いて黒字が残るかを見ます。黒字なら事業の実体があり、維持する判断が成り立ちます。

赤字なら法人は「器」になっていて、社会保険料が下がっても維持費で相殺される可能性があります。法人の社会保険と国民健康保険・国民年金の見込額は、同じ所得の前提で試算して並べます。

よくある質問(FAQ)

Q. 役員1人だけの法人でも、社会保険の手続きは社労士に頼むべきですか?

A. 社労士に頼まず、会社が自ら年金事務所へ届け出ることもできます。役員1人の間は、加入時の届出のあとに発生するのが、毎年7月の算定基礎届(4〜6月の報酬の届出)や、報酬を大きく変えたときの月額変更届、賞与を払ったときの賞与支払届などで、量も多くありません。

源泉所得税は、給与の支給人員が常時10人未満なら、税務署の承認を受けて7月10日と翌年1月20日の年2回にまとめて納付できます(土日祝日にあたるときは翌営業日)。

社労士への引き継ぎを含め、当事務所でどこまで対応できるかは、お問い合わせください。

Q. 役員報酬を2等級以上動かして社会保険料を変えたいとき、月額変更届は税理士事務所が代わりに出してくれますか?

A. 出せません。年金事務所への月額変更届は社会保険労務士の独占業務にあたるため、会社が自ら年金事務所へ提出するか、社会保険労務士に依頼します。

固定的賃金の変動で2等級以上の差が出るなどの要件を満たした場合、改定は変更後3か月の報酬で決まり4か月目から反映されるため、変更を決めた時点で提出時期を確認しておく必要があります。

Q. 賞与に寄せて社会保険料を圧縮するスキームは、将来使えなくなることはありますか?

A. 賞与の取り方を変えるだけで社会保険料が下がる仕組みのため、将来の制度改正で使えなくなる可能性があります。使う場合も、届出どおりの支給日と金額を1年先まで守れるかを、削減額の大きさより先に確認します。


NOMERAは、受託開発・SES・広告・ECなどデジタル領域の企業に特化した、東京・西新宿の会計事務所です。オンラインで全国対応しています。

一人法人・少人数法人の役員報酬は、税額の試算だけでなく社会保険料の負担まで含めて決める必要があります。自社に当てはまるかを確かめたい方は、お問い合わせフォームからご相談ください。現在の税理士がいる場合のセカンドオピニオンにも対応しています。

▶ 相談する(お問い合わせフォーム)

※本記事は2026年10月時点の公開情報にもとづく一般的な解説です。個別の取扱いは事実関係により結論が変わるため、実行前に税理士へご確認ください。

関連記事

UPDATE

内容は掲載時点の制度・実務に基づきます。制度改正があった記事は更新日を改めて記載します。
佐久間 元気

AUTHOR

佐久間 元気

代表 / 税理士・公認会計士

公認会計士試験合格後、PwCを経てNOMERA会計事務所を設立。月次の数字を経営判断につなげ、税務・労務・法務・融資までを一つの窓口で整理する体制を設計

税理士登録番号:149427 / 公認会計士登録番号:043719

POPULAR

よく読まれている記事

初回面談は無料・オンライン対応

現状の課題を整理し、NOMERAで対応できることをご説明します