この記事の要点
- 国税庁は年度ごとに重点分野を決めて調査しています。令和6事務年度は、消費税の還付申告、海外取引、無申告の法人への対応を主要な取組に挙げています。
- 受託開発の会社で指摘されやすいのは「期ズレ」です。請負の売上は原則として引渡しの日で確定するため、検収が期末の直前だと、入金の前に納税だけが先行することがあります。
- 外注を多く使う会社では、外注先が確定申告をしていないと、発注側に税務署から確認が来ることがあります(反面調査)。会社側に落ち度がなくても、対応の手間は発生します。
- 指摘された論点には、法律上動かせないものと、根拠を示して主張できるものがあります。普段の処理を整えておけば、慌てる場面は限られます。
税務調査で出てくる論点と、その期限
この記事で扱うのは、調査の通知と加算税、更正の除斥期間、期ズレ、反面調査、証憑の保存、消費税の簡易課税の届出の6つです。それぞれが何の制度で、いつまでに何をするかを先に整理します。
- 調査の通知と加算税:実地調査は原則として、日時・税目・対象期間などが事前に通知されます。通知の前に自分で修正申告すれば、過少申告加算税はかかりません。
- 通知の後でも、調査で指摘を受ける前に出した修正申告は5%です。指摘を受けてからの修正申告や更正は10%が原則です。
- 期限内申告の税額か50万円の多い方を超える部分は、それぞれ10%・15%になります。延滞税は別にかかります。
- 更正の除斥期間:税務署が過去の申告を直せる期間です。原則5年、偽りその他不正の行為があれば7年、法人税の欠損金の額を変える更正は10年です。
- 期ズレ:売上や経費を計上する事業年度がずれることです。請負の売上は目的物を引き渡した日、外注費は役務が完了し金額が確定した日で計上します。
- 反面調査:調査対象の会社の取引先に、税務署が取引の内容を確認しに行く調査です。外注先の無申告をきっかけに、発注側に確認が来ることがあります。
- 証憑の保存:法人は帳簿と領収書・請求書などを、確定申告書の提出期限の翌日から7年間保存します。青色申告で欠損金が生じた事業年度は10年間です。
- 消費税の簡易課税:基準期間の課税売上高が5,000万円以下なら、みなし仕入率を使って納税額を計算できる制度です。届出を出した翌課税期間から適用され、やめる届出を出さない限り効力が続きます。
- やめるときは、やめたい課税期間の初日の前日までに不適用届出書を出します。選択してから2年間は原則やめられません。どちらの届出も、期限が土日祝日でも延びません。
税務調査は、どんな会社に入るのか?
国税庁はその年ごとに重点分野を決め、調査の必要度が高い法人を選んで調査しています。
令和6事務年度(令和6年7月〜令和7年6月)の法人税の実地調査は約5.4万件でした。国税庁は「令和6事務年度 法人税等の調査事績の概要」で、この年度の主要な取組として、消費税の還付申告法人、海外取引のある法人、無申告法人への対応を挙げています。
選定にはAIによる予測モデルも使われていると公表されており、これまで調査がなかった会社が対象になることもあります。
設備投資などで消費税の還付を申告する期は、還付の根拠になる契約書や請求書をそろえておきます。
会社を畳んでも、更正の除斥期間が残っている過去の事業年度は調査の対象になります。畳む前に過去の処理を見直し、必要なら修正申告しておきます。調査の通知前なら、過少申告加算税はかかりません。
受託開発で「期ズレ」を指摘されやすいのは、なぜか?
請負契約の売上は、原則として契約日でも入金日でもなく、目的物を引き渡した日で確定するためです。
引渡しの日は、契約内容に応じて検収完了日など合理的な日を使います。履行義務が一定期間にわたり充足される契約では、進捗に応じて計上する取扱いもあります。
検収が期末の直前に寄ると、入金の前に売上と利益が立ち、納税が先行します。進行中の案件の検収予定を、毎月確かめておきます。
外注費も、支払日ではなく役務の完了日で計上します。金額が合理的に確定していることも条件です。期内に完了した業務なら、支払いが翌期でも当期の未払外注費にします。
月次で案件ごとの完了予定をメモしておき、決算前に一件ずつ確認しています。決算直前の確認で、外注費1件だけで税額50万円前後の差が出た事例もあります。
前半が準委任、後半が仕様を作り切る請負というように、月ごとに性質が変わる開発契約の事例があります。準委任は、成果物の完成ではなく、業務の遂行そのものを約束する契約です。
税務調査では契約書などの資料をもとに実態が判断されるため、準委任と請負の区分が契約書や成果物の記録で裏づけられる範囲で、実態に合う側に計上しました。
資料で裏づけられない部分は、無難に契約書に書かれた区分どおりに扱い、その区分で請負にあたる未完成分の金額だけを当期売上から外す、という判断にとどめる考えでした。
期ズレを直すと、税額はどちらに動くか?
直す方向によって、税額が減る期と増える期が出ます。
誤って翌期の売上を当期に計上していた場合、調査で翌期のものと認定されれば、当期は減額・翌期は増額の是正になります。翌期側に加算税・延滞税が付くことがあります。
逆に、当期の売上を翌期に送っていた場合は、当期の申告漏れとして追徴の対象になります。
外注を多く使う会社は、何を指摘されるのか?
外注先本人の無申告が、反面調査という形で発注側に跳ね返ってくることがあります。
外注先が確定申告をしていないと、税務署は支払った側に取引の内容を確認しに来ることがあります。副業の学生や海外在住の個人など、確定申告が必要だと意識していない相手が多いほど起こりやすくなります。
源泉徴収の対象にならない外注なら発注側に落ち度はありませんが、対応の手間は発注側が負います。
対策は、支払額の大きい相手から順に、確定申告の状況を聞いておくことです。必要なら、申告を頼める税理士を紹介する方法もあります。
経費の否認を避けるために、普段からできることは何か?
証憑を残し、事業との関連を説明できるようにしておくことです。
当事務所では、10万円以上の支払いは領収書・請求書をご提出いただき、それ未満は帳簿の摘要とコメントで補っています。全件の提出は会社の負担が大きく、形骸化しやすいためです。
10万円未満も領収書・請求書の保存は必要で、事務所への提出を省いているだけです。
事業との関連がはっきりしない支出は、関連を書類で説明できるかどうかで判断します。同行者や商談内容を記録した会食などは、主張する余地があります。
私的な支出と切り分けられないものは経費に入れず、返済してもらう前提で役員貸付金にします。経費に入れたまま調査で見つかると、役員への給与と認定され、法人の損金にならず、役員個人にも課税されることがあります。
事業との関連が弱いものは、否認される可能性が高いことを先にお伝えしたうえで、計上するかどうかを経営者に判断していただいています。
指摘されたら、すべて受け入れるしかないのか?
法律で明確に決まっている部分と、見解が分かれる部分を切り分けます。
20年以上前に提出された消費税の届出が誰にも気づかれないまま有効になっており、調査の途中で判明した事例があります。
この届出(簡易課税制度選択届出書)は、不適用届出書を出さない限り効力が続きます。法律上の結論としては、調査対象期間のうち基準期間の課税売上高が5,000万円以下の課税期間を、簡易課税で計算し直すしかありません。
この事例では、当事務所が税務署に対し、連絡が遅かった点は申し入れたうえで修正申告を行いました。見解の分かれる他の指摘については、契約書や記録をもとに当事務所の解釈を説明し、認められたものもありました。
金額の大きい仕訳ほど根拠を残しておくことが、実務上の備えになります。調査になった場合にどこまで対応できるかは、お問い合わせください。
よくある質問(FAQ)
Q. デジタル領域の会社は、税務調査で特に狙われやすいですか?
A. 業種で決まるというより、国税庁がその年ごとに決める重点分野や、申告内容から判断される調査の必要度で選ばれます。受託開発では期ズレ、外注が多い会社では外注先の無申告による反面調査が論点になりやすい、という形で業種の特徴が出ます。
Q. 期ズレの売上・経費を直すと、必ず追徴になりますか?
A. 方向によります。誤って翌期の売上を当期に計上していた場合は、当期は減額・翌期は増額の是正になり、翌期側に加算税・延滞税が付くことがあります。
一方、当期の売上を翌期に送っていた場合は、当期の申告漏れとして追徴の対象になります。
Q. 外注先が確定申告していないことが分かったら、発注側はどうすればよいですか?
A. 発注側に落ち度がなくても、反面調査の対応は発生します。年間の支払額が大きい相手から順に申告状況を確認しておくと、税務署から確認が来たときに落ち着いて対応できます。
NOMERAは、受託開発・SES・広告・ECなどデジタル領域の企業に特化した、東京・西新宿の会計事務所です。オンラインで全国対応しています。
税務調査で見られる論点の多くは、決算のときだけ整えるものではなく、月次の処理の積み重ねで決まります。自社の処理が当てはまるかを確かめたい方は、お問い合わせフォームからご相談ください。現在の税理士がいる場合のセカンドオピニオンにも対応しています。
※本記事は2026年10月時点の公開情報にもとづく一般的な解説です。個別の取扱いは事実関係により結論が変わるため、実行前に税理士へご確認ください。




