月次の数字を受け取っているのに判断に使えない——原因は2段階あり、順番に潰す必要がある

佐久間 元気

佐久間 元気

代表 / 税理士・公認会計士

月次決算の見方|数字は届いても判断に使えない理由

この記事の要点

  • 月次決算の試算表を受け取っていても判断に使えないなら、原因は2段階ある。①数字そのものが実態とずれている ②ずれていなくても、自社にとっての基準値がない。
  • ①は処理の問題。前受金の振替漏れ、仕入の計上タイミング、決済経路の二重計上——いずれも毎月判断が発生し、間違えたまま積み上がる。
  • ②は資料の問題。前月比や前年比は分かっても、「いくら現金があれば安全か」「利益率は何%を目指すべきか」は積み上げで計算するしかない。

月次決算の数字が判断に使えないのは、なぜか?

原因が2段階あり、順番に潰す必要があるからです。

第1段階は、数字そのものが実態とずれていること。処理の問題です。

第2段階は、ずれていなくても、自社にとっての基準値がないこと。資料の問題です。

中小企業では、①を飛ばして②から手を付けてしまうことがよくあります。しかし数字が狂ったまま目標値を設定しても意味がありません。まず数字を実態に合わせ、そのうえで基準を作る——この順序です。

第1段階:数字が実態とずれる原因は?

毎月の処理で判断が発生し、間違えたまま積み上がるポイントが3つあります。

① 前受金の振替が属人的になっている

サービスを提供する前に代金を受け取るビジネスでは、いったん前受金として計上し、役務を提供した月に売上へ振り替えます。この振替が手作業だと、1件飛ばすだけでその月の売上が狂います。

判断の基準も共有されていないことが多く、「入金日で売上を立てるのか、役務提供の月で立てるのか」が人によって違うと、月をまたぐ案件で必ずずれます。正しくは役務提供の月です。

広告費を先に預かるビジネスで、ある月の売上が前後の月より約500万円高くなっていた事例があります。調べたところ約140万円が前受金の登録ミス、残りは他部門の売上が紛れ込んだものでした。判断基準と振替手順を文書化し、月次チェックリストに組み込んで自社で回せる形にしています。
デジタルマーケティング支援|属人化していた前受金の振替を手順化し、月次売上が約500万円合わない状態を解消した事例

② 仕入を「支払った月」に計上している

ライセンスや商品の仕入があると、支払条件の違いがそのまま損益のゆがみになります。支払サイクルが翌々月なら、売上と原価が2か月ずれます。

売上を計上した月は原価が乗らないので利益が大きく見え、支払った月は対応する売上がないので利益が小さく見える。どちらの月も実態を表していません。

対処は、毎月の仕入を買掛金で計上し、支払時に消し込む処理へ切り替えることです。金額を確定させるために、発注システムや仕入先の管理画面から月別の明細を取得できるようにしておきます。

実際に、この処理をしていなかったために、ある月の利益が実態より約45万円多く計上される状態になっていた事例があります。

③ 決済経路が複数あり、二重計上が起きている

ネットモールや決済代行を会計ソフトに連携していると、売上の仕訳が自動で作られます。そのうえで銀行口座も連携していると、入金時にも仕訳が作られます。

このとき売掛金の回収側まで課税売上として拾われていると、売上が二重に計上されます。消費税の計算も狂うため、仮受消費税の残高が売上規模に対して不自然に大きくなります。

第2段階:基準値をどう作るか?

積み上げで計算します。業界平均を借りてくるものではありません。

数字が実態に合ったら、次は月次決算の数字を「どう読むか」です。ここで必要なのが、自社にとっての安全値と目標値です。

安全ライン:売上がゼロでも会社が持つ預金額

「手元にいくらあれば安全か」を、次の式で出します。

(月次の固定支出 + 月次の借入返済)× 持たせたい月数

月次の固定支出には、役員報酬・給料賃金・法定福利費・外注費の固定分・地代家賃・通信費などを入れます。借入返済は全借入の合計です。持たせる月数は、売上が止まってから新しい受注が入金になるまでのリードタイムで決めます。2か月が目安ですが、回収サイクルが長い事業や取引先が少ない会社は3か月以上を見ます。

項目別の金額を並べて示しておくことが大切です。固定費が変われば、安全ラインも自分で引き直せます。

目標利益率:借入返済を賄えるか

「営業利益率◯%を目指しましょう」と言われても、根拠がなければ動けません。自社の借入返済額から逆算します。

  • 返済を賄える最低ライン=(年間の借入返済額 − 減価償却費)÷ 年間売上高 → これを下回ると、返済のために預金を取り崩す状態になります
  • キャッシュフローに余裕を持たせるライン=返済額を簡易キャッシュフローで割った比率(返済充当率)が一定以下に収まる水準
  • 前期からの改善目標

この3つを並べ、その間を取って目標を置きます。「なんとなく15%」ではなく、3つの根拠から導いた15%であれば、実績がどの水準にあるのかを毎月判定できます。

少人数の会社では、役員報酬控除前の利益も並べる

役員が1〜2名の中小企業では、役員報酬が実質的に利益の分配を兼ねています。報酬込みの営業利益率だけを見ても、事業そのものの稼ぐ力が見えません。

そこで、役員報酬を控除する前の利益(事業利益)も併記します。ただし税務や金融機関向けには通常の営業利益を使うもので、事業利益はあくまで経営判断のための参考指標です。両方を並べて見ることが大切で、片方だけを使うと判断を誤ります。

安全ラインを固定支出と借入返済から積み上げ、営業利益率の目標を3つの客観的根拠から導出した事例があります。基準ができたことで、外注中心から自社の人員で回す体制へ変わった構造変化——売上は前期より減ったにもかかわらず、営業利益は大きく伸びた——を数字で捉えられるようになりました。

いま受け取っている月次決算の資料を、自分で点検するには?

推移表を出してもらい、4つ確認してください。

貸借対照表と損益計算書を月ごとに横に並べた推移表を出してもらいます。そのうえで見るのは次の4点です。

  • 役員報酬は毎月同額になっているか。定期同額給与は毎月同じ額であることが前提です。
  • 普通預金の残高が、実際の通帳残高と合っているか。合っていなければ取り込まれていない取引があります。
  • 売掛金・未払金が、ずっと同じ金額で残り続けていないか。消し込みが止まっているサインです。
  • 会社から代表に出ているお金がないか。役員貸付金、短期貸付金、あるいは役員借入金がマイナス——科目名は事務所によって違うので、名前ではなくお金の向きで見てください。金融機関からは実態のない資産と見られます。

どれかで引っかかるなら、第1段階(処理)から手を付ける必要があります。

そのうえで、基準値については2つ聞いてください。「売上がゼロになっても会社が持つ預金額を、金額で答えられますか」「営業利益率の目標値と、その根拠を説明してもらえますか」。どちらも積み上げで計算できるものです。

よくある質問(FAQ)

Q. 年間で見れば同じなのだから、月ごとのずれは気にしなくてよいのでは?
A. 年間の合計は最終的に揃います。問題は期中の判断です。利益が多く見えている状態で仕入や投資を決めると、後から資金が足りなくなります。決算の着地見込みや納税予測もずれます。

Q. 安全ラインはなぜ2か月分なのですか?
A. 売上が止まってから新しい受注が入金になるまでのリードタイムを見た目安です。回収サイクルが長い事業や、取引先が少なく1社失うと売上が大きく落ちる会社は、3か月以上を見ることもあります。

Q. 目標利益率は業界平均を使えばよいのでは?
A. 業界平均は参考になりますが、自社の借入返済額を賄えるかどうかは別問題です。返済額と減価償却費から逆算した水準のほうが、自社の実態に合った目標になります。

Q. 役員報酬を控除した利益を見るのは、都合のよい見方ではありませんか?
A. 税務や金融機関向けには、報酬込みの通常の営業利益を使います。事業利益はあくまで経営判断のための参考指標です。両方を並べて見ることが大切です。

Q. 仕訳の登録を自社でやると、間違えそうで不安です。
A. 判断を誤ると税務リスクに直結する領域は事務所側に残し、定型的な登録を自社担当にするのが現実的です。手順書と、処理後のセルフチェック項目をセットで用意すると、異常に自分で気づけるようになります。

NOMERAは、受託開発・SES・広告・ECなどデジタル領域の企業に特化した、東京・西新宿の会計事務所です。オンラインで全国対応しています。

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※本記事は2026年8月時点の公開情報にもとづく一般的な解説です。個別の取扱いは事実関係により結論が変わるため、実行前に税理士へご確認ください。

佐久間 元気

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佐久間 元気

代表 / 税理士・公認会計士

公認会計士試験合格後、PwCを経てNOMERA会計事務所を設立。月次の数字を経営判断につなげ、税務・労務・法務・融資までを一つの窓口で整理する体制を設計

税理士登録番号:149427 / 公認会計士登録番号:043719

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