この記事の要点
- 月次の試算表を受け取っていても経営判断に使えないなら、原因は2段階あります。①数字そのものが実態とずれている、②ずれていなくても自社にとっての基準値がない、の2つです。
- ①は毎月の処理の問題です。前受金の振替と仕入の計上時期は、毎月判断が要るため、間違えたまま積み上がります。
- ②は資料の問題です。「いくら現金があれば安全か」「利益率は何%を目指すか」は、自社の固定支出と借入返済から積み上げて決めます。
- 直す順番は、①が先、②が後です。数字が実態とずれたまま目標値を置いても、経営判断には使えません。
月次の数字を経営判断に使うための論点と、確かめる時期
この記事で扱うのは、数字のずれ2つと、基準値2つの4つです。それぞれが何で、いつ確かめるかを先に整理します。
- 前受金の振替:サービスの提供前に受け取った代金を、提供した月の売上に移す処理。毎月の締めで確かめる。
- 仕入の計上時期:仕入を、支払った月ではなく仕入れた月の費用にすること。毎月の締めで確かめる。
- 安全ライン:売上が止まっても会社が持ちこたえられる預金額。固定支出や借入が変わったときに引き直す。
- 目標利益率:借入返済を賄えるかから逆算した、営業利益率の目標。期首に決め、毎月の実績と比べる。
第1段階:数字が実態とずれる原因は?
毎月の処理で判断が要り、間違えたまま積み上がる箇所が2つあります。前受金の振替と、仕入の計上時期です。
① 前受金の振替が、担当者まかせになっている
前受金の振替を手作業で行っていると、1件飛ばすだけでその月の売上が狂います。処理の流れは次のとおりです。
売上を立てる月の基準が社内で決まっていないと、入金日で立てる人と、提供した月で立てる人が混在します。その結果、月をまたぐ案件で売上がずれます。売上を立てるのは、サービスを提供した月です。
広告費を先に預かるビジネスで、ある月の売上が前後の月より約500万円高くなっていた事例があります。調べると、約140万円が前受金の登録ミスで、残りは他部門の売上が紛れ込んだものでした。
判断基準と振替手順を文書化し、月次チェックリストに組み込んで、自社で回せる形にしました。
② 仕入を「支払った月」に計上している
ライセンスや商品の仕入では、支払条件の違いがそのまま損益のゆがみになります。支払が翌々月払いなら、売上と原価が2か月ずれます。
売上を計上した月は原価が乗らないため、利益が大きく見えます。支払った月は対応する売上がないため、利益が小さく見えます。どちらの月も実態を表していません。
対処は、仕入れた月に買掛金として費用を計上し、支払った月に買掛金を減らす処理に切り替えることです。仕入れた月に金額を確定させるため、発注システムや仕入先の管理画面から月別の明細を取れるようにしておきます。
実際に、この処理をしていなかったため、ある月の利益が実態より約45万円多く計上されていた事例があります。
第2段階:基準値はどう作るか?
自社の固定支出と借入返済から積み上げて計算します。業界平均を借りてくるものではありません。
数字が実態に合ったら、次は月次の数字を「どう読むか」です。そのために、自社にとっての安全ラインと目標利益率を決めます。
安全ライン:売上がゼロでも会社が持つ預金額
「手元にいくらあれば安全か」は、次の式で出します。
安全ライン=(月次の固定支出+月次の借入返済)×持たせたい月数
月次の固定支出には、役員報酬・給料賃金・法定福利費・外注費の固定分・地代家賃・通信費などを入れます。借入返済は、すべての借入の毎月の返済額の合計です。
持たせる月数は、売上が止まってから新しい受注が入金になるまでの期間で決めます。目安は2か月で、回収までの期間が長い事業や、取引先が少ない会社は3か月以上を見ます。
項目別の金額を並べて示しておくと、固定費が変わったときに安全ラインを自分で引き直せます。
目標利益率:借入返済を賄えるか
「営業利益率◯%を目指しましょう」と言われても、根拠がなければ動けません。目標は、自社の借入返済額から逆算して決めます。
- 返済を賄える最低ライン:(年間の借入返済額−減価償却費)÷年間売上高。これを下回ると、返済のために預金を取り崩すことになります。
- 余裕を持たせるライン:返済額を簡易キャッシュフロー(利益+減価償却費)で割った比率が、一定以下に収まる水準。この比率を返済充当率と呼びます。
- 前期からの改善目標:前期の実績から、どこまで引き上げるか。
この3つを並べ、その間に目標を置きます。「なんとなく15%」ではなく、3つの根拠から導いた15%であれば、実績がどの水準にあるかを毎月判定できます。
少人数の会社では、役員報酬を引く前の利益も並べる
役員が1〜2名の会社では、役員報酬が実質的に利益の分配を兼ねています。報酬を引いたあとの営業利益率だけでは、事業そのものの稼ぐ力が見えません。
経営判断のためには、役員報酬を引く前の利益も並べて見ます。税務や金融機関向けに使うのは通常の営業利益で、役員報酬を引く前の利益は社内の参考指標です。片方だけで判断すると誤ります。
安全ラインを固定支出と借入返済から積み上げ、営業利益率の目標を3つの根拠から決めた事例があります。
外注中心から自社の人員で回す体制に変わり、売上は前期より減ったものの、営業利益は大きく伸びました。基準ができたことで、この変化を数字で捉えられるようになりました。
いま受け取っている月次の資料を、自分で点検するには?
推移表を出してもらい、4つの点を確かめます。推移表は、貸借対照表と損益計算書を月ごとに横に並べた資料です。
- 役員報酬が毎月同額か。定期同額給与は、改定の時期を除いて毎月同じ額であることが前提です。
- 普通預金の残高が、通帳やネットバンキングの残高と合っているか。合わなければ、取り込まれていない取引があります。
- 売掛金・未払金が、同じ金額のまま何か月も残っていないか。残っていれば、入金や支払いとの照合が止まっています。
- 会社から代表に出ているお金がないか。科目名は事務所によって違うため、名前ではなくお金の向きで見ます。金融機関からは、実態のない資産と見られます。
- 例:役員貸付金、短期貸付金、マイナスになった役員借入金
どれかに当てはまるなら、第1段階の処理から直します。そのうえで、基準値について顧問税理士に次の2つを聞いてください。どちらも積み上げで計算できるものです。
- 売上がゼロになっても会社が持つ預金額を、金額で答えられますか。
- 営業利益率の目標値と、その根拠を説明できますか。
よくある質問(FAQ)
Q. 年間で見れば同じなのだから、月ごとのずれは気にしなくてよいのでは?
A. 期中に判断をする以上、月ごとのずれも直す必要があります。利益が多く見えている月に仕入や投資を決めると、後から資金が足りなくなります。決算の着地見込みや納税額の予測もずれます。
Q. 目標利益率は、業界平均を使えばよいのでは?
A. 業界平均は参考にとどめ、目標は自社の借入返済額から決めます。業界平均を上回っていても、自社の借入返済を賄えるとは限らないためです。
Q. 仕訳の登録を自社でやると、間違えそうで不安です。
A. 定型的な登録だけを自社で担当し、判断を誤ると税務リスクにつながる処理は事務所側に残せば、無理なく始められます。手順書と、登録後に見るチェック項目をセットで用意すると、異常に自分で気づけるようになります。
NOMERAは、受託開発・SES・広告・ECなどデジタル領域の企業に特化した、東京・西新宿の会計事務所です。オンラインで全国対応しています。
月次決算を経営判断に使える形に整えるところから対応しています。
この記事の内容が自社に当てはまるかを確かめたい方は、お問い合わせフォームからご相談ください。現在の税理士がいる場合の、セカンドオピニオンとしてのご相談にも対応しています。
※本記事は2026年10月時点の公開情報にもとづく一般的な解説です。個別の取扱いは事実関係により結論が変わるため、実行前に税理士へご確認ください。
参考文献
- 法人税基本通達 第2章第1節第3款「役務の提供に係る収益」 —— 役務の提供による収益は、役務を提供した日の属する事業年度に計上すること(2-1-21の2ほか)
- 国税庁 タックスアンサー No.5211「役員に対する給与」 —— 定期同額給与は、各支給時期の支給額が同額である給与であること
(2026年10月29日に原典で確認)
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