この記事の要点
- 会計ソフトの連携は、「買った事実」までは取れる。 モールによっては商品単位まで拾えます(そのぶんデータは重くなります)。
- 取れないのは、その先です。その買い物が何のためだったか、実質いくら負担したか、いくつ残っているか、いくらで売れば黒字か。 ここは事業者本人にしか分かりません。
- だから商品単位の台帳が要ります。ただし台帳は帳簿の代わりではなく、仕入の意思決定の道具です。日々つけているものが、そのまま帳簿にも使える形になっているのが理想の姿になります。
会計ソフトの連携では、どこまで分かるのか?
「買った事実」までは取れます。モールによっては商品単位まで拾えるので、そこは連携に任せて構いません。
まず誤解を解いておきます。「ネット通販の仕入は会計ソフトでは追えない」という説明を見かけますが、実際にはモールとの連携で注文明細まで取り込めるものもあります。ただし明細を全部取り込むとデータが重くなるので、どこまで連携に持たせるかは事業規模との相談になります。
問題は、そこから先です。同じモールで同じ日に買った3件が、1件は売るための仕入、1件は梱包材、1件は家庭用の買い物——という並びは、EC物販ではごく普通に起きます。明細を見ても、どれがどれかは書かれていません。
そして在庫。売上原価は「期首在庫+仕入−期末在庫」で決まります。期末に何がいくつ残っているかは、連携からは絶対に出てきません。数えるか、記録を積み上げるかのどちらかです。
EC物販の仕入管理で、押さえるべき数字は何か?
1行の入力から、性格の違う4つの数字が出ます。どれか1つが欠けると、判断か申告のどちらかが止まります。
| 出てくる数字 | 中身 | 使い道 |
| 仕入額 | クーポンと商品券を引いた、実際の購入額 | 帳簿の仕入高 |
| 実質仕入額 | 獲得ポイントを差し引いた、自己負担ベースの原価 | 仕入の良し悪しの判断 |
| 想定利益・損益分岐販売価格 | 販路の手数料率を当てて、いくらで売れば黒字かを出す | 値付け |
| 棚卸金額 | まだ売れていない行を集めて、期末の在庫を確定する | 期間の利益と申告 |
とくに混同が起きやすいのがポイントの2つの欄です。支払いに使ったポイント(Pt払い額)と、その買い物でもらったポイント(獲得ポイント)は別のものです。
- 支払いに使った分は、原価を動かしません。 カードで払うかポイントで払うかの違いだけで、仕入れた商品の値段は変わらないからです。ただしカードの請求額は変わるので、帳簿との突き合わせのために記録は残します。
- もらった分は、自己負担ベースの原価を下げます。 実質仕入額=仕入額−獲得ポイント。
両方に同じ金額を入れると二重に引かれ、利益が実際より大きく見えます。ここは実際に台帳の計算式を直した箇所です。
市販の在庫・受注管理ツールでは、なぜ埋まらないのか?
商品情報の取り込みや在庫管理には優れたツールがありますが、税務申告に必要な形にはなっていないからです。
顧問先も市販ツールを使っています。ただしそれらは販売と仕入の管理が目的で、仕入・経費・私用の区分、消費税率(軽減税率の対象が混ざります)、取引先ごとのインボイス(適格請求書等保存方式)の登録状況、期末の棚卸——このあたりは会計側の要件なので、出力をそのまま帳簿には使えません。
逆に、会計ソフトだけでも足りません。値付けに要る損益分岐販売価格やROIは、会計の関心の外にあるからです。
台帳は、販売管理と会計のあいだを埋める位置にあります。
【当事務所の事例】EC物販(年商1億〜2億円)
免税事業者から課税事業者になる初年度に、納付見込みだった消費税が約150万円の還付に転じました。期首に持っていた棚卸資産に係る消費税を仕入税額控除に加算できる調整を使っています。
→ 詳しくは事例ページをご覧ください。
台帳を、なぜ税理士事務所が配っているのか?
顧問先1社のために作ると採算が合わないものが、同じ業種が集まると採算に乗るからです。
当事務所では、EC物販の顧問先向けに仕入台帳(Googleスプレッドシート)を作って配っています。2026年に構造から作り直しました。アカウントを1つ増やすたびにシートが1枚増える設計だったので、シートが55枚を超えていた——それをモール別の7枚に畳み直し、旧台帳からの移行や期末の棚卸を、メニューから実行できるようにしています。
1社ごとに作れば、開発の費用は顧問料に見合いません。同じ業種の顧問先が集まっていれば、困りごとが同じ形で集まり、1回の改善が全員に届きます。 どの機能が実際に使われているかも、配布済みの台帳を横断して数えられます。
ここで効くのは、開発ができることそのものではありません。集計を「顧問先が見たいアカウント別」と「事務所が見たい仕入高」に分ける、実質仕入額と帳簿の仕入高をあえて一致させない——こうした判断は、会計の要件と商売の都合の両方を知らないと出てきません。作り直しの経緯と、作った後に壊れた箇所は別の記事にまとめました。
→ 記事B「AIで業務ツールは作れる。ただし『何を作るべきか』は決めてくれない」
いま使っている記録で足りているか、どう確かめるか?
自社の試算表を1枚開いて、仕入がどう積み上がっているかを見れば、だいたい分かります。
- 直近3か月の試算表(月次推移表があればそちら)を開く
- 「仕入高」と「期末商品棚卸高」の行を見る。あわせて、モールから受け取ったポイントがどの科目に入っているかを確認する
- 次のどれかに当てはまれば、記録の作り方から見直す余地があります
- 仕入高をモール別・アカウント別に分解できない
- ポイントで充当した分と、もらった分が区別されていない
- 期末の棚卸が、実際に数えた数ではなく概算で入っている
- 値付けのとき、損益分岐になる販売価格を毎回その場で計算している
- モールやアカウントが増えるたびにシートが増えて、管理しきれなくなっている
よくあるご質問
Q. 会計ソフトの連携を全部オンにすれば済みませんか?
A. 買った事実は取り込めますが、明細を全部取り込むとデータが重くなります。また、仕入・経費・私用の区分と在庫は、連携からは出てきません。連携は「買った事実」、台帳は「その意味と、その先」と役割を分けるのが現実的です。
Q. すでに自作のExcelやスプレッドシートで管理しています。乗り換える必要はありますか?
A. 回っているならそのままで構いません。ただし、モールやアカウントが増えるたびにシートが増えて管理しきれない、ポイントやクーポンの処理が正しいか自信がない、毎年同じところで詰まる、のいずれかに心当たりがあれば、一度ご相談ください。
Q. 棚卸は毎月やらないといけませんか?
A. 期末(法人なら決算日、個人なら12月31日)は必須ですが、月末や中間は任意で構いません。売れるたびに記録を更新していく方法は理屈としては正確ですが、続かなければ結局は不正確になります。続けられない仕組みは、価値がゼロになります。 期末にまとめて確定する方式に寄せるほうが、実務では回ります。
Q. EC物販以外の業種でも、こういう専用ツールを作ってもらえますか?
A. 同じ業種の顧問先が一定数いれば、専用の管理台帳を作る採算が合います。逆に、1社だけのために作ることは基本的にしていません。ご相談いただければ、既存の顧問先の分布と照らして判断します。
NOMERAは、受託開発・SES・広告・ECなどデジタル領域の企業に特化した、東京・西新宿の会計事務所です。オンラインで全国対応しています。
EC物販の仕入・棚卸の記録の作り方と、月次で回る体制の設計に対応しています。
この記事の内容が自社に当てはまるかを確かめたい方は、お問い合わせフォームからご相談ください。現在の税理士がいる場合の、セカンドオピニオンとしてのご相談にも対応しています。
※本記事は2026年9月時点の公開情報にもとづく一般的な解説です。個別の取扱いは事実関係により結論が変わるため、実行前に税理士へご確認ください。




