AIに決算書を読ませるとき、専門家の確認が要る理由——会計事務所の実務で出た誤りと、自社で確かめる4つの点

佐久間 元気

佐久間 元気

代表 / 税理士・公認会計士

AIに決算書を読ませるとき、専門家の確認が要る理由——会計事務所の実務で出た誤りと、自社で確かめる4つの点

この記事の要点

AIに試算表や決算書を読ませると、計算は合っているのに結論が違う、という誤りが出ます。帳簿の仕組み、事業の仕組み、会社の事情、帳簿の締めの状態を、AIが知らないためです。文章は整っているので、読んだだけでは見分けられません。

自社でAIに読ませるなら、預金の数字、締めていない月の混入、「リスク」とされた項目、割合の中身の4点を確かめてください。

税額や報酬の設計のように、制度にもとづく判断は税理士に確認してください。


AIが知らないために起きる、4つの誤り
帳簿の仕組み
まだ入金されていない予定の仕訳を、入金済みとして読む
事業の仕組み
その業種では当たり前の収益構造を、リスクとして警告する
会社の事情
意図して組んだ報酬や計上の設計を、問題として扱う
締めの状態
処理が終わっていない月を見て、未回収や赤字と断定する
いずれも計算の誤りではなく、前提の読み違い。文章は整っているため、読んだだけでは気づきにくい。

AIの決算分析は、どんな間違え方をするのですか?

計算ではなく、前提を読み違えます。そして、その読み違いを整った文章にして出してきます。

NOMERA会計事務所では、2026年1月から、顧問先の月次分析と決算分析の下書きをAIに作らせています。数値の計算そのものが原因の誤りは、ほとんどありませんでした。問題になったのは、帳簿の外にある事実をAIが知らないことです。

困るのは、誤りの見た目です。表の数字は合計が合っていて、文章も筋が通っています。「預金は十分にあり、資金繰りに余裕がある」と書かれていれば、読む側はそのまま信じます。見分けるには、帳簿と会社の実態を知っている必要があります。


実際に、どんな誤りが出たのですか?

事務所で税理士が確認して止めた例を、種類ごとに挙げます。

種類 AIの記述 実際
帳簿の仕組み 月末の預金は十分にある 会計ソフトから書き出した帳簿に、まだ入金されていない予定の仕訳が混ざっていた。実際の預金は、AIの記述の約20分の1だった
事業の仕組み 利益の大半がポイント収入なので、還元率が下がれば利益が消える ネット通販のポイント還元を収益の柱にする事業では、それが事業の前提そのもの
数字の中身 通販サイトへの手数料が売上の2割を超えている 同じ科目に配送料や他の支払いがまとめて入っていた。販売手数料だけなら15%弱
会社の事情 役員への貸付が発生しているので、早めの解消を 期末の役員賞与で解消する前提で、事務所が組んだ報酬の設計だった
締めの状態 取引先の代金が3か月未回収 その月の会計処理がまだ終わっていなかった

AIは、指摘を受けると理由を説明して直します。ある回には「その型を無意識に当てはめてしまいました」と書いていました。一般的な型を知っているからこそ、当てはまらない会社にも当てはめてしまいます。

経験の浅い担当者が確認しても、こうした誤りは通ってしまうことがあります。事務所では、税理士が完成した資料と解説動画を最後まで見てからお渡ししています。


入力の帳簿がずれていると、AIでは直せないのですか?

直せません。帳簿が実態とずれていれば、AIは計算を1つも間違えずに、間違った結論を出します。

中小企業の月次の帳簿は、お金が動いた月で計上されていることが多くあります。この状態だと、月ごとの黒字・赤字は、入金や支払のタイミングのずれでしかありません。事務所では、分析の前に「売上や費用が、取引が発生した月に計上されているか」を確かめ、ずれていれば累計や補正後の数字で評価しています。

事例:月次売上のずれの原因を突き止め、手順にした(デジタルマーケティング支援)

月次の売上が、社内の管理表と約500万円合わない状態が続いていました。原因は、前受金を売上に振り替える処理が担当者の判断に頼っていたことでした。判断基準と振替の手順を文書にし、同じ事業年度のうちに登録の誤りを直しています。

詳しくは事例ページ

帳簿の入力を整えることが、AIの分析の精度を上げるいちばん確実な方法です。


自社でAIに試算表を読ませるなら、どこを確かめればよいですか?

次の4点を、AIの回答と手元の資料で突き合わせてください。

確かめること 開く資料 こうなっていたら要注意
①預金の数字 ネットバンキングの残高と、試算表の「現金及び預金」 AIが書いた預金と、実際の残高が大きく違う
②締めていない月が混ざっていないか 試算表の対象期間 経理の入力が終わっていない月を含めて、「赤字」「未回収」と書かれている
③「リスク」とされた項目 AIの回答のうち、警告や改善提案の部分 自社の事業の仕組みそのものが、リスクとして書かれている
④割合・比率の中身 総勘定元帳の該当科目 「売上の◯%」の数字が、複数の支払いをまとめた科目から計算されている

①で差が出たときは、会計ソフトから書き出したデータに、まだ入出金が済んでいない予定の取引が含まれていないかを確認してください。

次の判断は、AIの回答だけで決めず、顧問税理士に確認してください。

  • 税額や納税の時期の見込み
  • 役員報酬や賞与の金額の設計
  • 節税の施策を実行するかどうか

制度の改正で金額の基準が変わっていても、AIが改正前の数字で書くことがあるためです。


専門家が確認すると、何が変わるのですか?

数字の正しさに加えて、提案がその会社の実態に合ったものになります。

AIは、帳簿の数字から一般的な改善案を出します。税理士は、その会社がいまどういう状況にあり、提案を実際に続けられるかを踏まえて、中身を調整しています。

AIの提案 会社の実態 調整した内容
売上を過去の実績の水準まで戻す 面談で、一部の事業を縮小する方針が決まっていた 決まった方針をもとに、確保できる売上の水準を見極める目標に置き直した
通販サイトごとのポイント還元率を毎月記録して分析する 記録と集計の手間が大きく、毎月は続けられない 提案から外した
金融機関から借り入れて資金を確保する 税金の滞納があり、借入ができる状況ではない 提案から外した

毎月の帳簿チェックでも同じです。AIは、社長が会社の経費を立て替えて「役員借入金」(会社が社長から借りているお金)が増えていることを、要注意として挙げていました。しかし、社長が立て替えた分を会社が後で返すだけなので、増えること自体は問題になりません。注意が必要なのは逆向きで、会社から社長にお金が出ている場合です。そこで税理士の判断で、役員借入金の増加は警告の対象から外し、会社から社長にお金が出たときだけ警告するようにしました。関係のない警告が毎月並ぶと、担当者は警告そのものを読み流すようになるためです。何を警告しないかを決めることも、実務を知る専門家の役割です。

逆に、AIが人の思い込みを正す場面もあります。それでも、どちらが正しいかを最後に決めるのは、その会社の帳簿と経緯を知っている人です。事務所では、AIを使い始めてからも税理士の確認は減っていません。

AIに移せたのは、帳簿を読む作業と、資料の形を作る作業です。その会社に何を伝えるかの判断は、人に残っています。


いつ、どのAIを使った話ですか?

2026年1月から9月までの事例です。AIはAnthropic社のClaudeを、その時点で最も性能の高いモデルで使ってきました。2026年7月24日に公開されたClaude Opus 5を、8月以降の分析で使っています。

モデルが新しくなれば、個々の誤りは出にくくなる可能性があります。ただし、AIが帳簿の外の事実を知らないことは、モデルが変わっても変わりません。ここで挙げた4つの確認点は、その前提で使えます。


NOMERAは、受託開発・SES・広告・ECなどデジタル領域の企業に特化した、東京・西新宿の会計事務所です。オンラインで全国対応しています。

顧問契約の範囲内で、経理まわりの手作業を減らす仕組みづくりのご相談も承っています。業種や規模によってできることは変わりますが、AIを使った月次の分析資料は、税理士が確認してからお届けしています。

この記事の内容が自社に当てはまるかを確かめたい方は、お問い合わせフォームからご相談ください。現在の税理士がいる場合の、セカンドオピニオンとしてのご相談にも対応しています。

相談する(お問い合わせフォーム)

参考文献

(2026年9月17日に原典で確認)


よくあるご質問

Q. AIに決算書を読ませるのは、やめたほうがよいですか?

A. やめる必要はありません。数字の全体像をつかむ下書きとしては役に立ちます。結論や提案をそのまま使わず、この記事の4点を確かめてから判断材料にしてください。

Q. 試算表のどの形式をAIに渡せばよいですか?

A. 月次の推移が分かる損益計算書と貸借対照表、あわせて仕訳帳があると、AIが取引の中身まで確認できます。ただし、渡すデータに未処理の月が含まれていないかを先に確かめてください。

Q. 顧問税理士がAIを使っているか、どう確かめればよいですか?

A. 「AIの出力を誰が、どこまで確認しているか」を聞いてみてください。使っているかどうかより、確認の体制が決まっているかどうかのほうが、資料の信頼性に関わります。


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佐久間 元気

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佐久間 元気

代表 / 税理士・公認会計士

公認会計士試験合格後、PwCを経てNOMERA会計事務所を設立。月次の数字を経営判断につなげ、税務・労務・法務・融資までを一つの窓口で整理する体制を設計

税理士登録番号:149427 / 公認会計士登録番号:043719

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